今回もCrimeカテゴリを多めに。推理小説って賞味期間が短いというか図書館からいなくなるのが早いことに気づいた。SFも早めだが推理小説ほどじゃない。
(211) グッドマン・イン・アフリカ(ウィリアム・ボイド/ハヤカワ文庫):
訳者あとがきにもあるけど、グリーンぽい。アイスクリーム戦争と同じ人だけど、こちらはユーモアたっぷり。在アフリカ英国外交官のモーガンは、理不尽な周囲に振り回されるGood Man。ま、本人もかなり自分勝手なんだけど。言い寄られてると思った上司の娘にはあっさり振られるし、雇人たちは言うこと聞かないし、恋人は思い通りにならない上に性病持ちだし、上司はとぴっきり無能でワガママ。堅物の医師は正義漢なのだが哀しい最期を遂げてしまう。映画化されているそうだ。描きようによってはしんみりすると思うが、例えばMr.ビーンが主人公を演じたら笑いっぱなしになること間違いなし。
(212) 夜中に犬に起こった奇妙な事件(マーク・ハッドン/ハヤカワepi文庫):
Comedyカテゴリだがこれはユーモア小説ではないと思う・・・自閉症?なクリストファーがいろんな困難と闘いながら、でも一人で頑張っていく話。無理解な人もいるし、理解しようとする人もいる。子供思いのパパやママでも傷つけてしまうこともある。知らない人の親切をはねのけてしまうこともあるし、警官とか従うべき人に従えなくて大ごとになることもある。クリストファーも自分なりに頑張る。我慢もするがやりたいことはちゃんと伝える。そしてだんだんに道が開けていく。個性だからね、と受け入れることは口で言うほど簡単じゃない。でも受け入れられる私でありたい、とは思う。一番大変なのは本人なんだしね。
(213) 青白い炎(ナボコフ/岩波文庫):
2014年新訳で。不思議な読み味の本。光文社古典で3冊読んだけどこれが一番好きかも。Comedyではないと思う。強いて言えばTravel?でも逃避行が主題でもないしな。不条理ぽいのだがファンタジーぽいところもあり、わかりにくい本ではあるが難解ではない。殺された老詩人が書いた英語の「青白い炎」という名前の詩集(ていうか詩篇?原文付き)を中心に、隣家に住んでいた外国語教授(=語り手)が前書きと註釈を付けて出版という構成なのだが、いわゆる信頼できない語り手というやつ。前書きもかなり註釈は殆ど、老詩人よりも自分のドラマチックな前半生が描かれている。それが詩の主題になっているかというと・・・詩の中に暗殺者の名前が隠されていると主張するが強引すぎるような。そもそもアンタは誰なの?とにかく不思議な本なのだ。研究書を書きたくなる気持ちはよくわかる。卒論には良くても読書感想文には向きませんので念のため。
(214) ニューヨーク三部作(ポール・オースター):
Guardian'sでは1タイトル扱いになっているのだが、実際にはそれなりの長さの小説が3つ。どれも推理小説とは言い難いのだが味わいがある。三部作というだけあって続けて読むべき作品群。
ガラスの街(新潮文庫):推理小説じゃない。犯罪小説ですらない。でも「私立探偵」は出て来る。私立探偵ポール・オースター宛の間違い電話を受けてしまった推理小説作家のクイン。依頼者は子供の頃に自分を幽閉した父が出獄してくるのを恐れている青年。探偵のフリをして駅で父親を見つけて尾行し、知らない他人を装って話をしたりするが、老人に巻かれてしまう。老人とも依頼人とも連絡が取れなくなり、困って電話帳のポールオースターを訪ねたら、探偵ではなくこちらも小説家。気になって路上で依頼人宅を見張り続けるクイン。1か月で持ち金が尽きてアパートに戻ると、部屋は解約されて別の人が住んでいる!持ち物も失って小説を書く気も失せて・・・クインはどこにいってしまったのでしょうか。推理小説じゃないけど面白い。ニューヨークぽい。
幽霊たち(新潮文庫):更に推理小説じゃない。事件も起きない。でも私立探偵は出て来る。私立探偵ブルーは怪しいホワイト氏から依頼されてブラック氏を終日見張る。しかしブラック氏はほとんど外出せず窓辺で何か書いている。尾行も殆どなくてつまらないブルー。ホワイト氏の正体を知ろうとするがうまく行かない。変装してブラック氏に接触するもらちが明かない。恩師のブラウンは当てにならず、彼女からも捨てられて、自分を見失っていく。とうとうブラック氏と対決してみると書いていたのはなんと自分の物語!
鍵のかかった部屋(白水Uブックス):全然推理小説じゃない。私立探偵クインも脇役としてしか出てこない。幼馴染ファンショーの妻から残された原稿を託される文筆家の私。良い作品なので出版することになる。ファンショーは生死不明だが生きていないと思うと妻は言う。魅力的な妻に恋してしまい、結婚して一緒に暮らし始める。ファンショーの作品は話題となり印税も入り、自分で書いたのでは?とみんなに言われる。学校を出てからは音信不通だったファンショーの一生を手紙とかインタビューで再構成して本にしようと調べ始めるが、調査にのめりこんで自分がファンショーなのか?ファンショーは何者なのか?パリまで行くけど答えは出ない。インタビュー本は諦めて幸せに暮らそうとするところに、ファンショーからお手紙。鍵のかかった部屋から出てこないファンショーから最後の原稿を託されてしまう。自分が作り上げたファンショー作品を鮮やかにひっくり返す内容。しかし電車で原稿を一枚一枚破り捨てて、僕は自分の生活に戻るのだった。
(215) 毒入りチョコレート事件(E・C・ベントリー/創元推理文庫):
推理好きが集う犯罪研究会は、警視庁協力の元に事件の真相を推理することになる。女好きの男に届いたチョコレートをもらった夫婦が犠牲となり妻が死んでしまった事件。6人のメンバーは順番に自分の推理結果をプレゼンするのだが、みんな意見が違う。真実に近づいていく。定番の「配偶者」や、意外のボク!(も条件に当てはまる。ボクじゃないけど)。次々に新情報がもたらされ、真実に近づいていく。伏線はキレイに張られていて最後まで行く前に犯人はわかるのだが、この趣向は面白い。でも真似すると確実に「チョコレート事件ね」と言われてしまうよなー(笑)
(216) レイディ・オードリーの秘密(メアリ・E・ブラッドン/近代文藝社):
老男爵との玉の輿結婚に漕ぎつけた美貌のルーシーは実は。外国で一儲けして置いてきぼりにした妻と息子を迎えに来たジョージは、妻の死亡告知を新聞で読んで意気消沈。慰めようと伯父の館に連れ出した弁護士のロバートはしかし旧友を見失ってしまう。旧友を探している内に奥方の秘密はだんだんと暴かれる。ルーシーも非情かもしれないがジョージもひどいよね。裏切られても無理ないと著者(女性)は思っていたのが冒頭の伏線でわかる。可愛そうなルーシーは、殺人未遂は見逃されても狂人として施設に収容されてしまう。情が薄い女はそんなに悪いのか?言いたいことはあるようだが、言えてないのが残念。
(217) ネオン・レイン(ジェイムズ・リー・バーク/角川文庫):
ハードボイルド警察小説。舞台はニューオーリンズ。暴力と麻薬が蔓延する世界は暗い。どこの組織も腐敗が進む。希望がないわけじゃないけどしかし。でもアメリカの他の街より、食事を大事にしてる感じで美味しそうだな。でもとにかく暗い。
(218) 三十九階段(ジョン・バカン/創元推理文庫):
冒険小説。犯罪は一応あるのだが推理の余地はない。南アからロンドンに帰国したお気楽なお貴族様は、アパート上階の住人から助けを求められ、話半分に聞いてたのに当人(自称ジャーナリスト)は殺されてしまう。えっあの話本当だったんだ!とびっくりしながら悪者と警察を避けて逃避行。思いつきで様々な冒険をするが、親切な人もアヤシイやつもいる。最後は残された手帳の謎を解いて「39段の階段があって特定日時に満潮になる」場所を見つけて、怪しげな屋敷に入り込み、怪しそうに見えないやつらに騙されずに敵に打ち勝つ!敵はドイツ人だから撤退も計画通りに行う筈だ!って、まぁそうなんだけどさ(笑)。
(219) ケリー・ギャングの真実の歴史(ピーター・ケアリー/早川書房):
ケリー・ギャングの名で知られるオーストラリアのダーク・ヒーローの「真実の」ドキュメンタリー風。鼠小僧みたいな感じ?仲間がいる点では清水の次郎長かな。銀行とかを狙っても人は殺さない。警官は殺すが警察の横暴を知っている市民からは支持されたりするが、密告もされるし裏切りもしょっちゅう。鼠小僧みたいにメディアに持ちあげられ(鼠小僧の場合は後世の、かな)ヒーローになるが、本人は本人なりの正義を持っているけど持っているだけ。娼婦として登場する奥さんのメアリが後半は行動派でカッコイイ。女って強い!
(220) 最後の物たちの国で(ポール・オースター/白水社):
こちらはオースターでもSF&Fカテゴリ。何もかもなくなっていく荒廃した世界。物がなくなるとその記憶も薄れて単語までがなくなっていく。何が理由でこんなことになったのか語られていないのだが、この「国」限定の話らしい。「政府」はあるが機能していない。取材に出掛けたまま行方不明の兄を追ってやってきた私。絶望的な毎日の中、優しい老女イザベルに出会ったり、偶然逃げ込んだ図書館に小さな避難所があって兄の後任のサムと出会って恋仲になったり。妊娠して希望を持ったころにうっかり騙されてビルから飛び降りて逃げる!ところが親切な施設に引き取られて、施設主ヴィクトリアと恋仲に。楽園は長続きしないが、サムとも再会出来て、仲間と一緒に街の外へと脱出を計画する。つまりラストには希望が残されていてAJ好み。去年ならこの絶望的な荒廃を暗いファンタジーとしてしか読めなかったかもだけど、コロナ渦の今、「社会」のもろさを実感したので他人事じゃない。ま、コロナはそこまでひどくはならないと思うけど、もっと質の悪い病が出てくる可能性もあるわけだし、地球温暖化や資源の枯渇も「遠い未来」とは限らないのだ。物はなくなっても物語はなくしてはならない、きれいごとだけど。