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2020年7月7日

Guardian’s 1000 (18)

図書館は開いてるし、連日の雨もあってお出掛けも少ないので、さくさく読書が進んでいます。
今回は早川書房が多め。ハヤカワepi文庫は当たりが多いので、光文社古典が一段落したら全点読破を目指してもいいなと思っている所。

(171) 権力と栄光(グレアム・グリーン/早川書房):
「権力と栄光」って政治とかビジネスとかの感じだけど、主題は宗教。神の力とご威光ということらしい。メキシコ独裁政権下の宗教弾圧を描いたもの。メキシコにこんな時代があったのね、意外。逃げない自分はエライと勘違いして、でも堕落していく司祭。逃亡の果てに臨終の懺悔に出掛けて捕まってしまう。宗教って何?信仰って何?と強く問いかける。映画「逃亡者たち」の原作だけど、映画は全然違うことになっているのだそうだ。

(172) 西欧人の眼に(コンラッド/岩波書店):
天涯孤独のロシア人青年は、巻き込まれたくない一心で自分を頼ってきたテロ犯の友人を密告。でもテロ犯が処刑されても、テロ仲間と危惧する/崇拝する両陣営から逃れられない。当局からスパイとしてジュネーヴに送り込まれ、何とかなりそうに思うけど、結局全てを告白する羽目に。風変わりな題名は、たまたま知り合った第三者な英国人が日記を託されて書いたから。出版は1911年で早い。1920年(ロシア革命後)につけた作者覚え書き冒頭で「状況がすっかり変わってしまったために、この『西欧人の眼に』が、過去の出来事を取り扱う一種の歴史小説になってしまった面のあること」と著者は書いている。共産党独裁のソ連となってしまった後では、既に過去の話なんだろうね。でも、「一般市民」でいたいだけなのに、、ていう主題は今でも有効ではあるな。当時ほど切実ではないにしても。犯罪を扱ってはいるが、CrimeよりState of the nation枠かも。

(173) わたしの名は赤(オルハン・パムク/ハヤカワepi文庫):
16世紀末のイスタンブールを舞台に宮廷細密画家が相次いで殺される。登場人物が章ごとに主人公となって語る(人物だけではなく、細密画に描かれた動物や静物、顔料まで語りだす。不思議な題名「私の名は赤」はここから)のだけど、最終章まで犯人の名前がわからない。推理小説として良いかどうかは別にして、当時の様子が良く描けていると思うし、現代に通じる問題提起にもなっているし、何より読んでて面白い。オスマントルコに関する知識がゼロだと読みにくいかもだけど、AJは行ったことのある場所がたくさん出てきて嬉しかった。旅行前後に予習復習したけど、思えばトルコ人が書いたものは読んでない。文化的にはペルシャの影響が大きいのね。地理的に当たり前のことだけど、欧州との関連でばかり捉えてたなーと反省。

(174) 青い眼が欲しい(トニ・モリスン/ハヤカワepi文庫):
青い眼が欲しいと願う黒人の少女。不幸が連鎖していく。「美しい」って難しい。黒人差別は今でもあるけど、黒人の中でも「黒人とニガーは違う」って意識があってそこにも差別があったりするんだな。こっちの解決も難しい。でもまずは単純な黒人差別を撤廃するところからだ。少なくとも差別は良くないことだという認識がまだ足りてないもんな。冒頭のDickとJaneは教科書に出て来るものって解説があって親切。通常文→句読点抜き→平仮名句読点抜きで並んでいる。日本語だと案外読めてしまうが、英単語がブランク抜きで並んでたら読めない気がする。ネイティブは読めるんだろうか。

(175) ソロモンの歌(トニ・モリスン/ハヤカワepi文庫):
黒人医師の祖父と実業家の父を持つおぼっちゃんなミルクマン。父と母の相克、父と叔母の苦労と行き違い。ルーツを辿ることで人生に向き合えるのかと思いきやそんなことはなくて、微妙に暗い結末。同じ数で平衡する必要があるというギターの理論が雑だが純粋。やっぱり未来が決まり過ぎな社会って希望がなくてよくないよね。

(176) ビラヴド(トニ・モリスン/ハヤカワepi文庫):
こういうのファンタジーって言う?幽霊は出て来るけど。殺された幼女の幽霊は怖いけど哀しい。誰でも「愛されるもの」でありたい、それだけなのに。親切な白人主人に仕える黒人奴隷の幸せ。それって幸せなのか?差別を完全になくすのは難しいことだけど、少なくともこれはダメってのをしっかり決めて、少しずつでもダメなものはダメとやっていくしかないんだろうな。他人の幸せをやっかむ気持ち、そんな自分を恥ずかしく思う気持ち。歌声が案外世界を変えたりする。いろいろ考える。BLMの今だから読むべき話だと思う。なんでファンタジー枠なんだろ、ぶつぶつ。

(177) 木のぼり男爵(イタロ・カルヴィーノ/晶文社):
意地を張って木に登ったまま地上に降りずに過ごすコジモ。設定はファンタジーだが描かれている内容は大人向き。ネオレアリズモと言うのだそうだ。本に夢中になって捕まってしまう泥棒の話と、樹上に追放(匿われる?)放浪貴族の話が印象的。あとファムファタルなヴィオーラちゃんも。内容も趣向も面白いとは思うが、「見えない都市」の方が全然好きだな。

(178) 蠅の王(ウィリアム・ゴールディング/ハヤカワepi文庫):
15少年漂流記救いがない版。おおよその筋は映画化で知ってたけど、何が蠅の王なのかなと思ってた。ベルゼブルが蠅の王なのね。子供に限らず人間ってそんなだとは思うが、肉に拘り過ぎだろ、魚を釣ることを考えようよ。全くイギリス人なんだからよ。

(179) 時計じかけのオレンジ(アントニー・バージェス/ハヤカワepi文庫):
不良少年のアレックスは友達と悪行三昧。調子に乗って殺人を犯して刑務所に入れられ、性格矯正の実験台になる。不本意のまま暴力に生理的恐怖を覚えるようになって退所したものの、両親の元には知らない男がいるし、大事なステレオは賠償のために売り払われているし、安食堂ではかつて被害者だった老人が無抵抗のアレックスを袋叩きにする。警察が来て助かったと思いきや、警官はかつての友達とライバルで更なる袋叩き。もう死にたいと彷徨の末にたどり着いたのはかつての被害者の家。しかし先方は気づかず親切にしてくれるし、政府の実験に憤り訴えるべきだという。隠れ家に連れていかれて一安心と思いきや、クラシックを大音響で聞かされて恐怖の発作で窓から飛び降りて自殺。のつもりが救助され、政府の病院でまた治療を受け、暴力的な性格に逆戻り。クラシックを聴いても素直に感動できて、まるっきりなおったのだ。とキューブリックの映画は終わるのだが、この後アレックスは新しい友達と悪さをしにいく途中で気が変わり、すっかり善人になった悪友に遭遇。自分ももう大人になる時期なんだな、結婚でもしよう!と終わる。確かに映画にこの章は要らないね。ハッピーエンド好きのAJだが取って付けた感じする。でも作者は元の木阿弥で終わるのはイヤだったのだそうだ。スラング(造語)だらけの文章は面白くないとは言わないが・・・映画見る方が良さそう。

(180) 昏き目の暗殺者(マーガレット・アトウッド/ハヤカワepi文庫):
これってファンタジーなの?Crime扱いかと思った。老女の現状と回想、名前がわからない男女の情事、その中で男が語るSF的物語の三層構造で語られる。表題の「昏き目の暗殺者」は、直接的にはSF的物語の登場人物なのだが。伏線は、あからさまではないまでも目につくレベルで張られており、ははん、それってこういうことかと推測できる。そういう意味でも当人だけがblindなのだ。推測は出来ても読ませます。読んでて面白い。「昏き目」って翻訳も上手いな。

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