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2020年8月22日

光文社古典新訳シリーズ(25)

祝250タイトル読破!刊行スピードに追い付いてきたので、来月からは新シリーズを並行予定です!

(241) あなたと原爆(ジョージ・オーウェル):ちくま文庫の「動物農場」の解説で、丸谷さんが褒めていたという「象を撃つ」読みたいと思ってたんだ。光文社古典新訳で読めて幸せ。
評論集だけどエッセイに近いものも多い。社会評論も読む価値あると思ったけど、個人的に好きなのは「おいしい一杯の紅茶」。イギリス人ぽい!紅茶が飲みたくなりました。ポットをお湯ではなくレンジで温める、って電子レンジじゃないよね?オーブンレンジってこと?それは面倒なんですけど。

(242) 勇気の赤い勲章(スティーヴン・クレイン):南北戦争の数日間を一兵士の立場で。ドキュメンタリーに感じるが事実を元にしたフィクション。これまでの戦況どころか、目の前の事態すらわからない。負けたと思ったら勝ってたりなんかして。勝ったと思ったら撤退するように言われたり。こんな感じなんだろうな、としみじみ思う。反対する母を振り切って参戦を志願した割には、初戦で負けたと思い込んで敵前逃亡してしまったヘンリー。事情を知らない仲間は傷(=勇気の赤い勲章)を負って行方不明になっていたと誤解する。二回目以降は蛮勇をふるって踏みとどまるけど、なんだかやけっぱちか狂気。兵士なんて一つの駒。なんで戦争はやめられないのか。

(243) とはずがたり(後深草院二条):源氏物語が現実にはやっぱり無理、的な話。疾走よりも迷走の感じ。時代は鎌倉中期。作者が実在したのか、フィクションなのかも不明だそうだが、私の気持ちがどこにあるのかわからない感じが逆に事実っぽい。初めての女性の娘二条を4歳から手元に置いて愛人とし、光源氏を気取る後深草院。でもガードが足りずに二条は他の男とも通じてしまう。心変わりなのか何なのか、自分でも不明。美人で歌も上手く家格も高いのに、両親が死んでしまうと良きパトロンに恵まれない。宮廷を追い出され、出家して歌をめぐる聖地巡礼うろうろ。年をとっても美人で歌も上手いからそこそこ生きていけるけど、でも都に戻りたい。でも戻るとイケてない自分が許せない。せめて歌で後世に残りたいと思ってこの本を書いた、ってのは確かにありそうな話だ。華やかなりしころに元寇があった筈だが全く記載なし。ま、個人的にそれどころじゃなかったことは確かだが。こぞって泥酔と色恋模様に明け暮れる模様が、事実はこんなだろうなと思える。南北朝の起源はこの兄弟なのか。大変ドラマチックだが大河小説には無理だな。歴史を描けてないもの(笑)。

(244) オイディプス王(ソポクレス):やっぱり光文社古典新訳は解説がいいよね!「詩学」ではイマイチわからなかった「タ・タンとタン・タ」(長短)の説明も詳しく書いてある。日本語はギリシャ語じゃないけど、畳みかけるお芝居の感じは想像できる。有名な物語だからいろいろな解釈があること、ソポクレスの創作部分もあること、とか、やっぱり読むなら光文社古典だよ。

(245) 賭博者(ドストエフスキー):ギャンブル中毒あるある。ルーレットがロシア人のためにあるかどうかは自信ないが、解説にあるお金について、ロシア=蕩尽/フランス=収奪/イギリス=分配でドイツ=蓄積ってのは、各国の美術館・博物館を彷彿とさせてさもありなん。おばあちゃんの遺産をあてにした家族はいつ死ぬかとドイツの賭博場付高級リゾートから何度も電報を送るが、なんと当のおばあちゃんが乗り込んでくる!そして初めてのルーレットで初日は大儲けするが、当然のように翌日から負け始めてみんな大慌て。やめさせようとするがなかなかやめない。みんな遺産を当てにしやがって、私のお金なんだからね!と賭け続けるおばあちゃん。一家の家庭教師のアレクセイは賭けるお金もないからそこそこでやめられていたのに、愛しのお嬢様を借金から救おうとギャンブルに賭けて、いきなり大金持ちに。ところがお金で私を買おうって言うのね!とふられた腹いせにお金目当てのフランス女といい仲になってパリに繰り出しご蕩尽。これで懲りたかと思いきやすっかり生来のギャンブラーになる。イギリス人投資家(ていうか金貸し)から、お嬢様は本当は君が好きだったんだけど・・・もう君は賭博者だよねとダメ出しされ、貰ったお金で明日お嬢様に会いに行こう、でも今夜はこのお金でギャンブルだ!あるある。

(246) 三酔人経綸問答(中江兆民):理想論の紳士君と強硬論の豪傑君と南海先生の3人の酔っぱらいが天下国家を論じる。1/3が解説で1/3が原文。原文+註解でも読めると思うが、そうすると当時のこととして読んでしまいがちかも。新訳の方が確かに今でも通じる一般論として読める。書いてあることは同じなんだけど。理想論でも強硬論でもうまくないのはわかるけど、どうすればいいかはわからない。世襲の君主よりも選挙で選ぶ方が選択肢があるけど、それでも戦争はなくなる気配ない。戦争を望むのは結局国民の総意(ていうか気分)なんだと思う。なんでそうなってしまうのか。そこから抜けられないのか、謎。三酔人の議論を茶化すタイトルを付ける兆民は、ごまかしだけど正直でもある。正解なんてないのだ。それでも、問いから逃げてはいけない。

(247) ロビン・フッドの愉快な冒険(ハワード・パイル):岩波少年文庫収載なので、子供の頃に読んでいる筈なのだが。全く記憶なし。AJ好みではないから忘れたのかも。ロビン・フッドはバラッドで語り継がれていたもので、それを近代になって子供向け?に出版したものだそうだ。概ね水滸伝だが、結末は水滸伝程は寂しくない。それなりには寂しい。子供向けだからか色っぽい系の話は皆無。ていうかマリアン登場すらしない。荒っぽいし大酒飲みで信心深くもないが、王様には忠実。女っ気のない話で、子供でもAJには興味ない話だよなー。ヘンリー2世とかリチャード獅子心王とかイギリスの子供なら理解できるが、日本の子供では素通りしたしさ。今ならカドフェルの次の時代だってわかるし、リチャード獅子心王に連れられたら結局どこに行ったかも推測できるんだけど。オリジナル挿絵付。絵に添えられた英語が古い。出版は19世紀末ってことはわざと古風にしてるのか?大人だから興味深く読める話ではある。

(248) ラ・ボエーム(アンリ・ミュルジェール):オペラ「ラ・ボエーム」原作。原題は「ボヘミアン的生活」だそうで。若き芸術家たちのハチャメチャな青春グラフィティ。今読むと芸術家はみんな男性ばかりという点が引っ掛かるが、でもおバカ男子な雰囲気は女子が入ると崩れるのかもだしなー(笑)。オペラとは筋が微妙に違うそうです。付録二の大使ギュスターヴ・コリーヌ閣下が楽しくて好き。

(249) カルメン/タマンゴ(メリメ):カルメンはスペイン行った時に予習復習で読んだ。セビリアっぽく見えないのは同じ。でも、ジプシーはカルメンで、ホセはバスク人だからセビリアは単なる背景ともいうか。蛇足の4章付。黒人奴隷船を描いた「タマンゴ」の方が面白いな。タマンゴは売る側の黒人だが、酔っぱらって起こったついでに売り払った妻を取り返しに奴隷船に乗り込んで捉えられてしまう。妻と周りをうまく巻きこんで白人(フランス人)を殲滅して自由の身に!でも操船がわからず遭難する羽目に。ありそう。

(250) アラバスターの壺/女王の瞳(ルゴーネス):ボルヘスの師による幻想短編集。南米よりエジプトとかのエキゾチシズム。でもダークサイドミステリー的な科学っぽい記述が却ってエセ感を煽って逆効果のような。素直に怖いだけの「ヒキガエル」とかが好きだな。

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