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2020年12月18日

Guardian’s 1000 (22)

今回もCrimeカテゴリを多めに。推理小説って賞味期間が短いというか図書館からいなくなるのが早いことに気づいた。SFも早めだが推理小説ほどじゃない。

(211) グッドマン・イン・アフリカ(ウィリアム・ボイド/ハヤカワ文庫):
訳者あとがきにもあるけど、グリーンぽい。アイスクリーム戦争と同じ人だけど、こちらはユーモアたっぷり。在アフリカ英国外交官のモーガンは、理不尽な周囲に振り回されるGood Man。ま、本人もかなり自分勝手なんだけど。言い寄られてると思った上司の娘にはあっさり振られるし、雇人たちは言うこと聞かないし、恋人は思い通りにならない上に性病持ちだし、上司はとぴっきり無能でワガママ。堅物の医師は正義漢なのだが哀しい最期を遂げてしまう。映画化されているそうだ。描きようによってはしんみりすると思うが、例えばMr.ビーンが主人公を演じたら笑いっぱなしになること間違いなし。

(212) 夜中に犬に起こった奇妙な事件(マーク・ハッドン/ハヤカワepi文庫):
Comedyカテゴリだがこれはユーモア小説ではないと思う・・・自閉症?なクリストファーがいろんな困難と闘いながら、でも一人で頑張っていく話。無理解な人もいるし、理解しようとする人もいる。子供思いのパパやママでも傷つけてしまうこともある。知らない人の親切をはねのけてしまうこともあるし、警官とか従うべき人に従えなくて大ごとになることもある。クリストファーも自分なりに頑張る。我慢もするがやりたいことはちゃんと伝える。そしてだんだんに道が開けていく。個性だからね、と受け入れることは口で言うほど簡単じゃない。でも受け入れられる私でありたい、とは思う。一番大変なのは本人なんだしね。

(213) 青白い炎(ナボコフ/岩波文庫):
2014年新訳で。不思議な読み味の本。光文社古典で3冊読んだけどこれが一番好きかも。Comedyではないと思う。強いて言えばTravel?でも逃避行が主題でもないしな。不条理ぽいのだがファンタジーぽいところもあり、わかりにくい本ではあるが難解ではない。殺された老詩人が書いた英語の「青白い炎」という名前の詩集(ていうか詩篇?原文付き)を中心に、隣家に住んでいた外国語教授(=語り手)が前書きと註釈を付けて出版という構成なのだが、いわゆる信頼できない語り手というやつ。前書きもかなり註釈は殆ど、老詩人よりも自分のドラマチックな前半生が描かれている。それが詩の主題になっているかというと・・・詩の中に暗殺者の名前が隠されていると主張するが強引すぎるような。そもそもアンタは誰なの?とにかく不思議な本なのだ。研究書を書きたくなる気持ちはよくわかる。卒論には良くても読書感想文には向きませんので念のため。

(214) ニューヨーク三部作(ポール・オースター):
Guardian'sでは1タイトル扱いになっているのだが、実際にはそれなりの長さの小説が3つ。どれも推理小説とは言い難いのだが味わいがある。三部作というだけあって続けて読むべき作品群。
ガラスの街(新潮文庫):推理小説じゃない。犯罪小説ですらない。でも「私立探偵」は出て来る。私立探偵ポール・オースター宛の間違い電話を受けてしまった推理小説作家のクイン。依頼者は子供の頃に自分を幽閉した父が出獄してくるのを恐れている青年。探偵のフリをして駅で父親を見つけて尾行し、知らない他人を装って話をしたりするが、老人に巻かれてしまう。老人とも依頼人とも連絡が取れなくなり、困って電話帳のポールオースターを訪ねたら、探偵ではなくこちらも小説家。気になって路上で依頼人宅を見張り続けるクイン。1か月で持ち金が尽きてアパートに戻ると、部屋は解約されて別の人が住んでいる!持ち物も失って小説を書く気も失せて・・・クインはどこにいってしまったのでしょうか。推理小説じゃないけど面白い。ニューヨークぽい。
幽霊たち(新潮文庫):更に推理小説じゃない。事件も起きない。でも私立探偵は出て来る。私立探偵ブルーは怪しいホワイト氏から依頼されてブラック氏を終日見張る。しかしブラック氏はほとんど外出せず窓辺で何か書いている。尾行も殆どなくてつまらないブルー。ホワイト氏の正体を知ろうとするがうまく行かない。変装してブラック氏に接触するもらちが明かない。恩師のブラウンは当てにならず、彼女からも捨てられて、自分を見失っていく。とうとうブラック氏と対決してみると書いていたのはなんと自分の物語!
鍵のかかった部屋(白水Uブックス):全然推理小説じゃない。私立探偵クインも脇役としてしか出てこない。幼馴染ファンショーの妻から残された原稿を託される文筆家の私。良い作品なので出版することになる。ファンショーは生死不明だが生きていないと思うと妻は言う。魅力的な妻に恋してしまい、結婚して一緒に暮らし始める。ファンショーの作品は話題となり印税も入り、自分で書いたのでは?とみんなに言われる。学校を出てからは音信不通だったファンショーの一生を手紙とかインタビューで再構成して本にしようと調べ始めるが、調査にのめりこんで自分がファンショーなのか?ファンショーは何者なのか?パリまで行くけど答えは出ない。インタビュー本は諦めて幸せに暮らそうとするところに、ファンショーからお手紙。鍵のかかった部屋から出てこないファンショーから最後の原稿を託されてしまう。自分が作り上げたファンショー作品を鮮やかにひっくり返す内容。しかし電車で原稿を一枚一枚破り捨てて、僕は自分の生活に戻るのだった。

(215) 毒入りチョコレート事件(E・C・ベントリー/創元推理文庫):
推理好きが集う犯罪研究会は、警視庁協力の元に事件の真相を推理することになる。女好きの男に届いたチョコレートをもらった夫婦が犠牲となり妻が死んでしまった事件。6人のメンバーは順番に自分の推理結果をプレゼンするのだが、みんな意見が違う。真実に近づいていく。定番の「配偶者」や、意外のボク!(も条件に当てはまる。ボクじゃないけど)。次々に新情報がもたらされ、真実に近づいていく。伏線はキレイに張られていて最後まで行く前に犯人はわかるのだが、この趣向は面白い。でも真似すると確実に「チョコレート事件ね」と言われてしまうよなー(笑)

(216) レイディ・オードリーの秘密(メアリ・E・ブラッドン/近代文藝社):
老男爵との玉の輿結婚に漕ぎつけた美貌のルーシーは実は。外国で一儲けして置いてきぼりにした妻と息子を迎えに来たジョージは、妻の死亡告知を新聞で読んで意気消沈。慰めようと伯父の館に連れ出した弁護士のロバートはしかし旧友を見失ってしまう。旧友を探している内に奥方の秘密はだんだんと暴かれる。ルーシーも非情かもしれないがジョージもひどいよね。裏切られても無理ないと著者(女性)は思っていたのが冒頭の伏線でわかる。可愛そうなルーシーは、殺人未遂は見逃されても狂人として施設に収容されてしまう。情が薄い女はそんなに悪いのか?言いたいことはあるようだが、言えてないのが残念。

(217) ネオン・レイン(ジェイムズ・リー・バーク/角川文庫):
ハードボイルド警察小説。舞台はニューオーリンズ。暴力と麻薬が蔓延する世界は暗い。どこの組織も腐敗が進む。希望がないわけじゃないけどしかし。でもアメリカの他の街より、食事を大事にしてる感じで美味しそうだな。でもとにかく暗い。

(218) 三十九階段(ジョン・バカン/創元推理文庫):
冒険小説。犯罪は一応あるのだが推理の余地はない。南アからロンドンに帰国したお気楽なお貴族様は、アパート上階の住人から助けを求められ、話半分に聞いてたのに当人(自称ジャーナリスト)は殺されてしまう。えっあの話本当だったんだ!とびっくりしながら悪者と警察を避けて逃避行。思いつきで様々な冒険をするが、親切な人もアヤシイやつもいる。最後は残された手帳の謎を解いて「39段の階段があって特定日時に満潮になる」場所を見つけて、怪しげな屋敷に入り込み、怪しそうに見えないやつらに騙されずに敵に打ち勝つ!敵はドイツ人だから撤退も計画通りに行う筈だ!って、まぁそうなんだけどさ(笑)。

(219) ケリー・ギャングの真実の歴史(ピーター・ケアリー/早川書房):
ケリー・ギャングの名で知られるオーストラリアのダーク・ヒーローの「真実の」ドキュメンタリー風。鼠小僧みたいな感じ?仲間がいる点では清水の次郎長かな。銀行とかを狙っても人は殺さない。警官は殺すが警察の横暴を知っている市民からは支持されたりするが、密告もされるし裏切りもしょっちゅう。鼠小僧みたいにメディアに持ちあげられ(鼠小僧の場合は後世の、かな)ヒーローになるが、本人は本人なりの正義を持っているけど持っているだけ。娼婦として登場する奥さんのメアリが後半は行動派でカッコイイ。女って強い!

(220) 最後の物たちの国で(ポール・オースター/白水社):
こちらはオースターでもSF&Fカテゴリ。何もかもなくなっていく荒廃した世界。物がなくなるとその記憶も薄れて単語までがなくなっていく。何が理由でこんなことになったのか語られていないのだが、この「国」限定の話らしい。「政府」はあるが機能していない。取材に出掛けたまま行方不明の兄を追ってやってきた私。絶望的な毎日の中、優しい老女イザベルに出会ったり、偶然逃げ込んだ図書館に小さな避難所があって兄の後任のサムと出会って恋仲になったり。妊娠して希望を持ったころにうっかり騙されてビルから飛び降りて逃げる!ところが親切な施設に引き取られて、施設主ヴィクトリアと恋仲に。楽園は長続きしないが、サムとも再会出来て、仲間と一緒に街の外へと脱出を計画する。つまりラストには希望が残されていてAJ好み。去年ならこの絶望的な荒廃を暗いファンタジーとしてしか読めなかったかもだけど、コロナ渦の今、「社会」のもろさを実感したので他人事じゃない。ま、コロナはそこまでひどくはならないと思うけど、もっと質の悪い病が出てくる可能性もあるわけだし、地球温暖化や資源の枯渇も「遠い未来」とは限らないのだ。物はなくなっても物語はなくしてはならない、きれいごとだけど。

2020年12月5日

アリメット デ ポム

 「アリメットデポム」では「家庭でできる和洋菓子」しかヒットしない謎の名前(笑)。検索結果からすると日本語では「アリュメット・オ・ポンム」が標準名称であるらしい。概ねヤマザキのアップルパイのような形のもの。

久々にパイシートを買って作ってみました。ちょっとひしゃげてしまったけど。「アリュメット」allumetteというのはマッチ棒のことで、細かく入れた切り目をマッチ棒に見立てているのですな。せっかく作るんだからと張り切って山パンよりも細かく切れ目を入れたのに、くっついてしまって意味なし。 

さて先の段落で「日本語では」と書いたのは、フランス語でもこう呼ばれているのか疑問符が付くからだ。allumette (マッチ)とpomme(リンゴ)の組み合わせでは、間に入るのがdeだろうがauxだろうが、フランス語記述は圧倒的にフレンチフライばっかり!

フランス語でpommeはリンゴで、ジャガイモはpomme de terre(大地のリンゴ)なのだが、大抵はどっちもpommeと呼ばれるのよね。マッチ切りにしたリンゴもしくはジャガイモて言ったら、そりゃフレンチフライを思い浮かべるのは当然な気がする。もっとも菓子パンのallumetteもフランス語wikiに記述があるので存在しないわけではないらしい。

ちなみにフレンチフライも菓子パンも「マッチ」には太すぎる気がする。でも日本語の「拍子木切」も拍子木ほどデカいわけじゃないしな。角棒型というだけでサイズは気にすべきじゃなかったんだな。

2020年12月4日

ハヤカワepi文庫シリーズ (3) 

ハヤカワepi文庫シリーズの第三弾は、トニ・モリスンとコ―マック・マッカーシーの固め読み結果となっております。グリーンやイシグロと違って、二人とも私の好みとは言えないのだが、読んで損はない本が多いよ。

(56) 越境(コ―マック・マッカーシー):
ニューメキシコからメキシコへ馬でふらっと行ってしまうビリー。放浪から帰ると父と母は殺され、弟はよその家に引き取られている。弟を連れ出して盗まれた馬たちを取り戻しにまたメキシコへ。うまく取り戻せたと思いきや復讐されてしまう。バラバラになって逃げて帰るも弟が戻らないので再度メキシコへ。瀕死の傷だらけの弟を助けると、前の旅で別れた少女を連れ戻してほしいという。連れ戻したら二人で出て行ってしまい・・・仕方ないからまたアメリカに戻って入隊しようとするも健康上の理由で断られ、そうこうしている内に弟が死んだと言われてまたまたメキシコへ。埋葬されていた遺骸を掘り出してアメリカに連れ帰る。相変わらず暗い小説だ。闘う少年たちも匿ってくれる大人たちも強いし健気なんだけど、全体的に暗くてAJ好みではないんだよ。アメリカっぽいとは思うんだけどさ。

(58) 平原の町(コ―マック・マッカーシー):
「すべての美しい馬」のジョン・グレイディと「越境」のビリーが出会う。老いたビリーが描かれるエピローグは現代。禅問答的。相変わらず暗くて好みではない。

(55) スーラ(トニ・モリスン):
常識的な家庭に育ったネルと自立心の強い女系家族のスーラは何故か仲良し。秘密も共有する。家を出たスーラがふらっと帰ってきて、あちこちの夫に手を出しては捨てて、街の嫌われ者になる。友達だったネルも亭主を寝取られ&逃げられて敵に回る。スーラを魔女扱いすることで結束していた街は彼女の病死により崩壊していく。自分のことしか考えていないスーラはそのことを隠さない。愛とか気遣いって案外偽善だったりするもんなー。でも偽善でもあった方がよかったりするんだよなぁ。亭主がいなくなって寂しいと思っていたネルはある日、スーラを失ったことが寂しかったことに気づく。うーむ。女の友情って難しい。男の友情も難しいのかもだけど。

(59) ジャズ(トニ・モリスン):
舞台は珍しくNY。電車で踊りながら上京した若いカップルは中年になりなんだか倦怠期。ジョーは若い女に入れあげて、しかし結局拒否されて彼女を殺してしまう。殺された女ドーカスの葬式にやってきた妻のヴァイオレットは遺体に切りつけて「バイオレント」と呼ばれるようになる。ジョーもバイオレットもドーカスも、その親や祖母・叔母も、それぞれの事情を抱えて、でも希望を持ってアメリカ国内を彷徨う。NYシティはそんなみんなを惹きつける。惹きつけて離さない。なんでここにいるんだっけ?地に足のつかない都会生活。同じ毎日の繰り返し。でも救いがないわけじゃないのよ。夢の国アメリカ、とは言えなくてもさ。

(61) パラダイス(トニ・モリスン):
話が時系列で進まないので読みにくい・・・登場人物の家族図が最後にあるのに読み終わって気づいた。せめてこれが先頭にあれば、ぶつぶつ。肌の黒さゆえに黒人からも差別された黒人たちの誇り高い開拓村。差別された側の方が案外差別意識が強くなったりする。どこでも弱い者いじめはありうるのだった。はみだし者の女たちの連帯が魔女っぽいと迫害にあう。しかしその後何が起こったのか女たちはいなくなってしまう。いなくなっても、いなくなってはいない。伝統は変わっていく、それがイイことなのか悪いことなのか?変わることは悪いことではないと思う。でも変えればいいってものでもないよね。深い、のだが、ストーリーが込み入ってることもあってちょっと読みにくいなー。ビラブドの方が好き。

マッカーシーの(4)すべての美しい馬、(60)ザ・ロード、(94)ブラッド・メリディアン、トニ・モリスンの(6)青い眼が欲しい、(54)ソロモンの歌、(57)ビラブドはGuardian'sで済。

2020年12月1日

シナモンロール(クッキー)

普通シナモンロールと言えば菓子パンの類なんだけど、「家庭でできる和洋菓子」 に載っているシナモンロールはクッキーなのだ。なんとか見た目が似ているのを見つけた。こんな感じ。

写真は、ベッカライヨナタンのクルンクンというクッキーで、渦を巻いているのはシナモンではなくレーズンやプルーン等の果実系。甘酸っぱくて美味しいのだが、シナモンは使ってないのよね。

「家庭でできる和洋菓子」のはシナモンだけを巻いていて、だいぶ探したのだがそういうクッキーは見つからなかったのだ。でも『シナモンの代りに、干ぶどうを細かく切って巻いたり、ピーナッツのみじん切り、胡桃のみじん切りを巻くこともあります』と書いてあるのでこれで良かったことにする。

一般的にはこういう形は「うずまき」と呼ばれるんだけど、うずまきクッキーというとアイスボックスクッキーの一種でココアで作るのが一般的。でもこれは粉200gに対してバターは70gでアイスボックスよりも固めでしっかりした生地に思える。 そこでクルンクンの登場となったのだった。

レシピサイトで「シナモンロール」と検索すると、当然のように菓子パンのシナモンロールが大量に出て来る。でもよくよく見ると中には「シナモンロール風クッキー」もあった。なるほど、「和洋菓子」にはそうは書いてないけど、元々はシナモンロール風クッキーだったのかなぁ?シナモンロールにはレーズンを挟んであることもあるしね。参考までにKALDIで買ったシナモンロールの写真も付けとこう。クッキーのシナモンロールと似ている気は全然しないけど。ぶつぶつ。


2020年11月4日

ハヤカワepi文庫シリーズ (2)

ハヤカワepi文庫シリーズの第2弾は、カズオ・イシロの固め読み。「日の名残り」も「私を離さないで」もいいと思ったけど、「忘れられた巨人」がAJ好みです。前回同様、先頭の番号はハヤカワepi文庫についている通し番号です。

(10) 遠い山なみの光(カズオ・イシグロ):
戦後の長崎を舞台に、幸せになりたい若妻悦子と子持ちの「アメリカさん」佐知子。悦子はその後英国人と恋愛してイギリスへ渡ることになる。解説で池澤夏樹が訳を褒めているが、微妙。日本の描き方に違和感があるが、でもこれは日本人が書いたわけでも日本語で書いたわけでもないしなー。日本人にとって違和感なく訳すのが正解とは言えないのは理解する。でも読んでいてやっぱり気になってしまう。「浮世の画家」は気にならなかったので、「長崎」じゃなくて、新型爆弾で壊滅的被害を受けたN市、とかであれば気にならなかったのかも。どうしても長崎には見えません。地元人どうしで標準語で会話してるし。呼び掛けの「万里子さん」も気になるが、「お母さま」はもっと違和感ある。悩ましいので日本人に限って読まない方がいいかも。

(33) わたしたちが孤児だったころ(カズオ・イシグロ):
清帝国末期の上海租界で両親の相次ぐ失踪で孤児となったクリストファーは、ロンドンで長じて名探偵になり、両親を探すために上海に帰ってくる。幼馴染の日本人アキラ、玉の輿志向の美女サラ、健気な孤児ジェニファー。みんな魅力的。一人で闘ってきたと思ってたのに実は母親に守られていたと知る。切ない。美人でお茶目で芯の強いお母さんが超魅力的で、マザコン小説に感じる。推理小説とも探偵小説とも言えない気がするが、強いて言えばファンタジーかな。

(63) 夜想曲集(カズオ・イシグロ):
「音楽と夕暮れをめぐる5つの短編集」。短編を寄せ集めたわけではないし、物語の間に微妙な連関もあるので、ひとつのnovel扱いでcomedyカテゴリーに入れてくれてもいいのに。あっ、2009年発表だから無理か(笑)。イシグロらしい味わいはあるけどこれはcomedyカテゴリだと思う。特にドタバタの「夜想曲」。「降っても晴れても」の友人に振り回されるレイモンド君はバーティ―を彷彿とさせるが可哀そうにジーヴスがいない。ロマンチックな「老歌手」と「チェリスト」はベネチアが舞台でちゃんとベネチアっぽい(観光客の魔法の国、ベネチア)。モーバンヒルズは英国の田舎が舞台だが脇役の元教師フレーザー婆さんがいそうで笑える。一番驚いたのは訳者あとがきで、英国における短編市場は長編よりうんと小さいということ!日本は短編集市場が結構大きい気がするけどな。二匹目のどじょうが短編集になりがちなだけ?そうかも。

(95) 浮世の画家(カズオ・イシグロ):
酒と女の夜の世界を描く師匠(=浮世の画家)を乗り越えて(裏切って)社会派というか忠君愛国的な絵を描いたらしい主人公。戦時中はお国の役に立ったが、戦後は風向きが冷たく、娘の縁談もそれで進めないような。幼い孫からも気を遣われているような。でも本人は後悔はしていない。今見ると思想として間違ってたけど、でもやらなきゃいけないと思ったことをちゃんとやったんだもん的な。一理ある。正義なんてあってないようなもんだしなー、かつての「偉業」を自分の意志ではなかったと誤魔化すよりは正直なのかもしれないが、自分の意志ではなかったと思いたくなる気持ちもわかる。どっちが正しいということじゃないよな。舞台は日本。違和感はないが、そうそう日本ってこんな感じ、ていう感じもない。たぶんここだなという感じもしない。東京じゃないと思う。別にどこかを描きたかったわけでもないんだろうけど。
ちなみにハヤカワepi文庫シリーズには「浮世の画家」が2種類ある。新訳が95番で古い方が39番。あまり違わない気がするけど、私が読んだのは95番の方です。

(91) 忘れられた巨人(カズオ・イシグロ):
アーサー王伝説を踏まえた物語。竜退治が主題のファンタジーではあるのだが・・・深い。アーサー王は侵攻するサクソン人を単に撃退したんだと思ってたけど、闘いの後で先住ブリトン人とサクソン人が「仲良く」暮らすための施策を行った。法律は怪しくなってきたが、もう一つの秘密の施策はまだ有効。それは魔法の力により過去を忘れさせるものだった。互いに殺戮しあった記憶が生々しいと「仲良く」暮らすのは難しいから、あと数世代竜を活かしておきたいアーサー王の騎士。復讐心から竜を倒したいサクソン側の騎士。単に記憶を取り戻したい(ような気がする)老夫妻。難しい。フタをするのはどうかと思うが、蓋を開けたらどうなったかも想像できるしな。難しい。そもそもそんな凄惨な戦いはすべきじゃなかったのだが、もう起きちゃったんだし。今の時代にも通じる重い課題。課題の深さも魅力だけど、登場人物が素敵。特に老夫妻。記憶を取り戻したら嫌いになるかも、忘れていくから愛情が続くのかもと思いつつ、でも常にそばにいたい。「お姫様」と呼びかけるのもいいなぁ。二人がどうなるかは書いてないが希望はある。周りからEnglandと呼ばれてもGBとも自称する英国。思うところがあるんだろうね。こうしてみると日本の歴史は平板だ。そう思っているだけかな?実は日本にこそ雌竜の息が健在だったりなんかして。ありうる。

(3)「日の名残り」、(47)「充たされざる者」はGuardian’sで、(51)「わたしを離さないで」はゼロ年代の50冊で済。

2020年10月26日

Guardian’s 1000 (21)

今回は1冊が多かったのでさくさく進んだ。光文社古典には収載されないだろうCrimeカテゴリが多め。

(201) ファントマ(ピエール・スヴェストル、マルセル・アラン/風濤社):
「ファントマ」が怪人の意味だとは知ってたけどこのシリーズが元だったのか。誰が犯人なのかはすぐにわかってしまうし、トリックは超人過ぎるので、推理小説ではなく冒険活劇スリラーだな。ルパン的な超人ぶりのファントマは紳士的なこともあるが強盗殺人なんでもござれの極悪人。そして超人はファントマだけではなく、追う方の警部も超人、巻き込まれる被害者も超人がいたりして、そんなのありか活劇。面白いことは面白いのだが、面白いだけかも。

(202) ディミトリオスの棺(エリック・アンブラ―/ハヤカワミステリ):
イギリススパイ小説の元祖だそうだ。探偵小説を書くラティマーは、イスタンブールでたまたま知り合った自作のファンの好意で、かつての国際犯罪者ディミトリウスの他殺体を見物。どんな犯罪者だったのかなと調査していくうちに怪しい男につきまとわれる。自分が見た死体は実は別人?迷いながら好奇心から恐喝にお付き合いして当人と遭遇。絶体絶命の危機を運よく回避して終わり、ってそんなご都合主義な。金で雇われる戦争の黒幕。単なる冒険小説ではないのがイギリススパイ小説の伝統なんだろう。見習えよ007!

(203) あるスパイへの墓碑銘(エリック・アンブラ―/創元推理文庫):
国籍をなくした語学教師がリゾート先で写真を現像に出したら覚えのないものが写っていていきなりスパイ容疑で逮捕。よく考えたらカメラを取り違えてた。同じカメラを持っていたホテルの誰かって誰?調べ始めてみると誰も微妙に怪しいような。しかしバタシー君やることがダメダメでドツボにはまる。滞在客はそれぞれに裏事情があったことが最後にわかる。そしてバタシー君は当局の諜報機関の人だったという結末を押し付けられ、逃げるようにパリに戻るのだった。各国人の描き分けも楽しく読めた。

(204) トレント最後の事件(E・C・ベントリー/創元推理文庫):
素人探偵トレント恋に落ちる。ホームズばりの千里眼だが動機のところで間違って残念。トリック満載の割に結論はシンプルでいまいち・・・

(205) マルタの鷹(ハメット/ハヤカワミステリ):
魔性の女は誰にとっても天使じゃないといけない。確かに同性に通用しないならただの性悪女だもんな。騙されないし許せないのに惹かれていることを隠さないサム・スペードは強い男だと思う。表題の鷹の像についてあっさり終わり過ぎ。もう少し謎というか因縁が欲しかったなぁ。しかしマルチーズって「マルタの」って意味だったのか!犬のマルチーズはマルタ生まれに見えません。

(206) 血の収穫(ハメット/創元推理文庫):
ハメットの長編第一作。私立探偵が主人公で元祖ハードボイルド。暴力シーンは多いのだが、人が死に過ぎと思う。血で血を洗う抗争ってやつ。当然男性が多いのだが、若い情報屋ダイナちゃんが魅力的。娼婦の割には女を売りにしない。さすが高級娼婦は違うね。頭が回るし腕っぷしもなかなか。酒も強いが怖がる時はちゃんと怖がる。カッコイイのになんで殺されちゃうんだよう。

(207) キャッツ・アイ(マーガレット・アトウッド/開文社):
小学生の頃、女子グループ内の虐めを乗り超えた主人公。今では自立した画家でバツイチ子持ち、再婚もしていわゆる成功した人生。かつて虐めていたコーデリアとは高校で再開し立場が逆転。復讐したい/しているような、そうでもないような。でも間違いなくトラウマにはなっている。自伝的作品だそうな。あるあるだけど、細部がやっぱりうまいよね、単なる自伝ではこうはいかないと思う。キャッツアイは虐められていた私のお守りだったビー玉。虐められている子が読んでも参考にはならないと思うが、しかしうまい。ハッピーエンドではないけど希望はある。ていうか絶望はない。しみじみと読める。自分の子供時代を思い返す。

(208) 侍女の物語(マーガレット・アトウッド/ハヤカワepi文庫):
近未来ディストピア。宗教系団体がクーデターを起こして北米を支配。「普通の生活」から10年経ってない程の近未来。1985年発表ということは20世紀内なのか。愕然。主に女性の権利を抑圧する様子はイスラム教チックだが、聖書ベースのキリスト教らしい。いわゆる福音派?まずは職場から女性を「解放」、女性の財産は夫や父などのものとなりクレジットカードも使えなくなる。うーむ。現実的。女性は青い服の「奥様」と緑の服の「女中」、赤い服の「侍女」の3種類となる。「侍女」は妾というより露骨に子供を産むための存在。3種類のどれでもない女性は「非女性」として姥捨て山行き。男性も特権に応じて子供を持てるか決まるなど抑圧はあるのだが、女性についてより多くが割かれている感じ。ディストピアに慣れ切った住人ではなく、つい先日の普通の生活が思い出されるのがイイ。赤い服の描写も細かい。顔が見えにくいように、ベールでもマスクでもなく「白い翼」が付いている。カッコイイ・・・。出口のない生活から脱走を図るが、うまく行ったかどうかは謎、の過去の物語(200年くらい前)として提示される。1985年といえば、東西戦争も行き詰まってきて明るい未来が見えた気がしていたころ。20年でテロ戦争に変わり、また20年で違う危機になっている。こんなに簡単に世界って変わる。ま、現在となっては本を読まなくても実感できるんだけどさ。絵的にアニメ向きだが、浅くなるのでアニメにしないで欲しいです。

(209) 瘋癲老人日記(谷崎潤一郎/中央公論社):
瘋癲(ふうてん)な老人の日記。息子の嫁に恋着する病持ちの金持ち爺さん。しっかり者の嫁は水商売出身で舅を見事に翻弄する、ように老人には思える。創作なのはわかるのだが、実話ベースにしか思えない。Wiki見てみたらやっぱりモデルがいて実話が混ざっているようだ。だろうなぁ。これは谷崎にしか見えませんよ。普通、谷崎と言えば痴人の愛か細雪だと思うのですが。本作はスキャンダル過ぎる気がするんですが。まぁ谷崎らしい作品だと言われるとそうなんだけどさ。枯れずに頑張る!と主張する男性週刊誌は多いが、傍から見ると結構キビしいと自覚はしないとね。こんな風に自分を曝すのが谷崎ではあるが、見たくなかったなぁという気持ちが半分、でも老醜を見ないふりするのもダメだよなぁと自戒の気持ちも半分。

(210) イワン・デニーソヴィチの一日(ソルジェニーツィン/新潮文庫):
強制収容所(ラーゲル)で過ごすイワン・デニーソヴィチ・シューホフのありふれた一日を起床から就寝まで。酷寒の中、三度の食事と作業の間に繰り返される点呼と整列。過酷で希望のない毎日にも慣れてしまう。管理する側もされる側もズルをするし悪党もいる、不公平もある、人種偏見もある。でも、労働に熱中する楽しさや班で一致協力する喜び、稀に仲間に見せる優しさや神様への感謝とか、小さな幸せもある。小さすぎる幸せだけど。登場する囚人の多くは政治意識の薄い巻き込まれ型。それでも「あいつは悪いやつだから一律25年」になったのだろうなぁ。さもありなん。そんなソヴィエトは既に過去の話ではあるけど、あんまり他人事じゃないなぁ。今読んでも古くない話。

2020年10月11日

新シリーズ開始:ハヤカワepi文庫シリーズ

やっとハヤカワepiシリーズを書き始めます!全部で100タイトル弱。Guardian’s他で既に3分の1が収載済なので案外早く終わっちゃうかも。一覧はこちら
第一弾は、Guardian’sで読んでみて面白かったグレアム・グリーンの固め読み結果になってます。ちなみに先頭の番号は、ハヤカワepi文庫についている通し番号です。

(28) おとなしいアメリカ人(グレアム・グリーン):
ベトナム戦争直前のサイゴン。英国人ジャーナリストはアメリカ青年に美女フォンを奪われるが、青年は殺されてしまう。日本帝国撤退後にアジア独立の機運が高まったのは知ってたけどこんな感じだったのか。旧宗主国フランスはなんだか分が悪い。そこにアメリカが乗り込んでくる。相手がコミュニストだかららしい。アメリカ青年本人は素直で真面目ないいやつなのだが、やってることは怪しい。各国ジャーナリスト達もフランス軍も結構怪しいし、麻薬漬けの現地人もやっぱり怪しい。確かになんでアメリカが参加したのか。そんなにコミュニストが怖い?どんな利権があるんだと思うよねーやっぱり。

(75) 国境の向こう側(グレアム・グリーン):
短編が16。表題作は前書きによると途中で投げちゃったものらしく尻切れトンボ。「最後の言葉」は1984的ディストピア小説で、記憶を失った老人が最後にはちゃんと?ローマ教皇として葬り去られる。信仰も忘れたけれど、やっと安寧を得られると思わず主を称える様子に、狼狽する国家元首。ありそう。「エッフェル塔を盗んだ男」イギリス人のパリ嫌いって感じで笑える。「中尉が最後に死んだ」落下傘で降りてきたドイツ軍が酔いどれ親父に退治されてしまう。なんか哀れ。レストランを格付けするのは実は諜報活動の隠れ蓑って笑える。これもフランス嫌いな感じ?

(32) 事件の核心(グレアム・グリーン):
アフリカ植民地で警察副署長を勤めるスコービーはなんだか不運。仕事はマンネリだし妻は煩わしいし友達もいない。妻の旅行中に若い未亡人とうっかり恋仲になるが、カトリック教徒としては姦通に悩む。どうしてこんなことにと思っている内に妻は帰宅するし昇進も決まる。でも全然幸せになれない。恋人も捨てられないし妻の期待も裏切れない。信じられると思っていた少年召使も信じられなくなる。悩んだ末に心臓の薬を大事に取っておいてこっそり一気飲み。残された妻と神父さんは、彼は神を愛していたのだ、と話し合う。神だけを愛していたと。うーむ。救いよりも罰を与える神様。ていうか、救いよりも罰が欲しいと思うのが信仰なのか。事件の核心はいつも切ない。

(31) 二十一の短編(グレアム・グリーン):
短編が21。「特別任務」特別秘書の仕事は身を清くして免償を得ることなんだけど実は。ありそう。懲りずに次の秘書を探すのが笑える。「ばかしあい」は老詐欺師二人がそうと知らずに互いの子供の玉の輿を狙う。当の二人は事実を知った上で乗る。ハッピーエンドでいいね(笑)。腹鳴がすごすぎる「能なしのメイリング」。まとめて読むと同じように見えちゃうのが難。

(38) ヒューマン・ファクター(グレアム・グリーン):
地味で真面目な諜報員モーリスは実は二重スパイ。情報漏洩に気づいた組織はしかし同僚のデイヴィスを抹殺してしまう。このまま辞めればわからないけど、でも。最後の仕事をすることで自分の立場を明かし、東側へ逃亡する。残された黒人妻と息子と再会できるのか、幸せになれるのか、でもいったいどこで?

(30) 負けた者がみな貰う(グレアム・グリーン):
丸谷才一訳。社長が招待してくれた筈の結婚記念豪華バカンス。ところが社長は現れず。滞在費を支払うために大博打。忘れちゃダメじゃん、社長。後味も良いユーモア小説。

(73) 見えない日本の紳士たち(グレアム・グリーン):
表題作を含めて短編が16。色恋の軽い話が多い。レストランにいた日本の紳士たちが「見えない」表題作はあまり面白くない。新婚夫婦を巡る「ご主人を拝借」はちょっと面白い。一番好きなのは、別れた女があちこちに顔を出す「過去からの声」かな。これは怖い。でも笑える。

(35)ブライトンロック、(1)第三の男、(29)権力と栄光はGuardian’sで収載済