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2021年4月11日

ハヤカワepi文庫シリーズ (6)

(8) 生は彼方に(ミラン・クンデラ):
共産党政府が出来ようとする頃のチェコ・プラハ。ママに溺愛されるヤロミールは絵や小説、詩に興味を持つ少年。初恋はなかなかうまくいかないが、憧れていた女性の同僚のリードで初体験。そのまま恋に夢中になるが、よく考えると美人でもグラマーでも知的でも上品でもない。更にもしかしたら尻軽女かも、嫉妬から暴君になっていく。革命政府を支持する一方、芸術は芸術なんて余計なことを言ったりもする。国外逃亡する兄を見送りに行くという彼女を警察に売り飛ばす(ホントは嘘だったのだが政府はそうは思わない)。革命派の芸術者集団の仲間入りが出来ると思ったのに、余計なことを言ってバルコニーに追い出され、寒さの中肺炎になりあっさり死んでしまうのだった。自伝的小説なんだそうな。その頃のチェコが良く描かれているんだろう。チェコはロシアとは違うが、オーストリアともやっぱり違う感じ。

(40) バルザックと中国の小さなお針子(ダイ・シージエ):
文化大革命下の中国。自伝的作品。医師の両親をもつ主人公は、有名歯医者の父を持つ親友のラオと一緒に地方に「下放」される。近所には作家の母を持つメガネもいる。虐められるメガネが親のコネ+金で下放生活から抜け出す時に、隠し持っていた禁書入りトランクを盗んで来るふたり。バルザック始めたくさんのフランス文学を読みふける。近くに住む仕立て屋の娘に好意を持つが、積極派のラオが恋人にするのを指をくわえてみてるだけ。ラオはフランス文学を娘(小裁縫=小さいお針子)に読んでやり、教養をつけようとする。ラオの留守中に妊娠がわかり、僕は病院に行って、翻訳本を代金代りに堕胎を手配してやる。街に出てお洒落に興味を持ち、自分で縫った服で着飾って見違えるほどきれいになった小裁縫。教育の効果があったぜ、と喜んでいる少年たちを尻目に、ひとり村を出て都会に向かうのだった。ここにも若い女あるある。

(74) 素数たちの孤独(パオロ・ジョルダーノ):
初めて読むジョルダーノ。これ好き。アリーチェとマッティア。子供の頃の辛い思い出と物理的に負っている傷。一般的な恋愛とは違うけど惹かれ合う二人。久しぶりに再会して、自分にはこの人しかいないという確信と同時に、でも相手は自分を必要としていないというはっきりした思い。「双子の素数」の近さと遠さ。身にしみて切ない。

(76) 虹をつかむ男(ジェイムス・サーバー):
光文社古典でも短編集を読んだ。同じ作品も結構入っている。印象も同じでニューヨーカーらしい軽い読み物。日本だと機内誌な感じ。

(92) 後継者たち(ウィリアム・ゴールディング):
ネアンデルタール人vs後継者ホモサピエンスの話だとわかるのは、前書きというか冒頭にウェルズのネアンデルタール人観が引用されているから。当時はネアンデルタール人はあらゆる意味で劣っていたから負けたと思われていたけど、著者はそうは思わなかったわけだ。心意気や良し。でも何だか純真無垢だけど愚鈍で遅れてる感じに描かれている気がするし、これはこれで差別のような。まぁ常識は時代によるので仕方ないんだけど。面白いのは、原始人の気持ちになって書かれていること。言葉はあっても文字がないと伝わる内容は限られるんだな。その辺を頭に入れて書かれているのは実験的というかイイと思う。

(90) 蠅の王、(45-48) エデンの東、(80-81) 怒りの葡萄 はGuardian’sで済。

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