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2012年9月2日

「読み直す1冊」シリーズ(2)

前回(1)以上に重たすぎるのが多くて、1年掛かってしまいましたがようやく5冊(文庫本27冊)読み終わりました。やれやれ・・・

(6) 源氏物語(紫式部/玉上琢弥:角川ソフィア文庫):対訳形式のものを探すのに時間が掛かった。原文と訳が遠い場所にあって栞が2枚必要でしたが、でも良い本だった。文庫で読む方にはお勧めいたします。
なるほど源氏物語って面白いや、と素直に思った。当時の皆さんが一斉にハマったのは無理もありませんね。他にこんな本はなかったんだし。どう面白いかというと「テレビドラマみたい」です(笑)。学校の授業や映画で取り上げられるのは前半(光源氏が現役の頃)ですが、そんな人いないよと思える前半よりも、「あるある」だらけの後半の方が面白いと思う。とはいえ余りに「あるある」で普遍的なので、当時はすごく新しかったんだろうけど、今見るとその辺のテレビドラマと同じでインパクトがないともいう。だから前半ばかり取り上げるのだろうな。
教養として読もうかなと言う方には、これ読む前に伊勢物語を読むことをお勧めします。いろんな解説にも書いてあるけど、紫式部は伊勢物語を読んで、私なら!と脳内恋愛をしていた文学少女だったのだと思う。最初の構想(妄想)は須磨明石で、明石の御方(=紫式部自身)が主人公だったに違いない。でもそれはマズイ(恥ずかしい)と思って方向転換したのが良かったのだよなぁ。良くできた正妻の葵上ではなく幼い位の若紫に肩入れするのは、定子と彰子の三角関係に由来するのだろうけど、若紫の存在こそが男性読者を惹きつけたと思うね。明石の御方が主人公のハッピーエンドだったら物語として薄っぺらいよ。とはいえ前半で一番ドラマチックなのは須磨明石だと私は思います。子供のころから何度も何度もよく練った展開だからじゃないかと(笑)。
枕草子も面白いとは思ったけど、読む側の教養を問われる部分が多い。源氏物語の方が単なる野次馬としてセレブの世界を垣間見る感が強い。これも人気の秘密だと思うな。食べ物もたくさん出てきて嬉しかった!(そこかよ) 。

(7) 山家集(西行/佐佐木信綱:岩波文庫ワイド):今年の大河ドラマでは藤木直人君が演じている西行の歌集。今年に限らず多くの場合、カッコよくて武士としても有能で清盛のお友達で、なのに突然若くして出家して世捨て人になる(これは史実)という設定になっているんだけどさ。藤原璋子に報われぬ恋をしたという設定も多い。今回もそうみたいね。そうなんだろうな、と思ったのは、出家後でも、ガンガン色恋の歌を詠んでいるんだよなぁ。歌人としてものすごく才能があるのは間違いないとしても、やっぱり相当つらい恋をしてその思いが残っていないと、こういう歌がすっとは出てこないだろと思う。
普通の言葉を普通に使ってるのに、圧倒的に伝わる力のある歌。ひたすら上手いなぁ・・・と感心。

(8) 今昔物語集(國東文麿:講談社学術文庫/池上 洵一:岩波文庫):これも全文が載っているのを探すのが大変だった…結局、インド/中国編は講談社学術文庫で、本朝編は岩波文庫で読むことになりました。講談社学術文庫は非常に読みやすかった。訳注も解説も充実していて◎。なんで本朝編がないのか。とても残念だ。是非文庫で出してほしいです。
インド(天竺)編はほぼお釈迦様の話。結構知っている話があるのは、シッダールタ(ヘッセ)を読んだせいなのか、手塚治虫のブッダはまじめに読んでないので、百億の昼と千億の夜かな?
良く考えると当たり前なんですが、キリストの生涯が聖書に書いてあるように、お釈迦様の生涯は仏典に書いてあるのね。あーお経ってそういうものが書いてあるものだったのかーと思った(呪文かと思ってた・・・)。聖書は読んでみたのに仏典は読んだことない。読んでみたいかもと思った。
中国(震旦)編が結構面白いと思ったのは、講談社学術文庫の注釈が良くできていたからだと思う。今昔物語集にはこう書いてあるけど、それは間違いで実際には・・・と言った解説がとても興味深かった。今はネットで機械翻訳の力を借りながら簡単に検証できることが、当時はあり得ないほど難しかったんだろうなぁ。宮城谷中国史で知った人たちが何人も出てきて、知ってる知ってる!なのも面白かったなぁ。
本朝編を読んだ岩波文庫には、現代語訳はありません。注もありません。なんと原文だけで読んだんだよ。インド中国編を現代語訳と並行して読んだ後ということも勿論あるけど、「和漢混淆文」ていうのは文語(明治時代位の)にかなり近い。時代はそんなに変わらない源氏物語は、原文だけでは主語や鍵かっこを補足してもらってもほとんど意味が分かりませんが、今昔物語は読みはいまいち判らなくても意味ならだいたい判ってしまう。逆に言うと、文語体って残した方が良かったんじゃないか。ITが普及した今だからこそ、復権すべきではないか。漢文読めると中国語も読めるかもだし(笑)
ま、原文だけで読みはしたけど読むのは大変で、1冊1か月掛かったこともありました。講談社学術文庫さん、本朝編も出してよ。頼むよ・・・(出てもたぶんもう読まないけど)

(9) 風姿花伝(世阿弥/野上豊一郎、西尾実:岩波文庫):うって変わって薄っぺらい本で2日で読了。基本的には芸人の心得なんだけど、人としてそうだよねぇ、と思うところもあったりして。子供の頃はいろいろ指導すると萎縮する/イヤになるので子供の思うままにやらせた方がよいとか、若いうちには若いということだけで華があるとか、下賤の民を下賤でなく演じなくちゃダメとか。普遍的な部分もあるけどやっぱり基本的には演じる人向け。芸能界の皆様にはぜひ読んでほしいね(他人事)。

(10) 世間胸算用(井原西鶴/東明雅:岩波文庫):お正月ではなく大晦日から始まって、どこまで行くのだ?と思っていたら全部大晦日の話だった(笑)。基本は京都大阪で、ちょっと意外だったのは、江戸が大都会の扱いになっていること。江戸から見ると都は京都だと思ってたんだけど、既に江戸が中心という認識だったのかね?そういうものだったのかも。商いの極意、のようなものがかなりの皮肉と一緒に描かれている。大阪はともかく京都は商都と言う印象がないんだけど、でもお公家様はごく一部しかいないんだから、大半はお公家様向けの商売をする町人だったってことなんだな。
一番ええ?と思ったのは、正月飾り(「蓬莱」と書いてあった)に付ける伊勢海老の話。確かに今でも鏡餅の飾りに伊勢海老のようなものが付いてたりするけど・・・あれって昔はほんとの伊勢海老だったの?茹でて飾ったの?腐らないのかね?生のまま縛り付けたら・・・死んじゃうよねやっぱり。半月ほど前に安値で買っておいたわよ、という話なのだが、冷凍庫のない時代、どうやって保管してたんだ?とそっちばかり気になるAJでした。

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