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2021年3月25日

Guardian's 1000 (24)

今回はCrimeカテゴリーが9冊。これでCrimeカテゴリーは、未訳含めた全147タイトル中80冊まで終了、”H”まで来た。夏までには1回終わるかな?まぁ全体から見ると1/4まで来てないんだけど。

(231) アメリカの悲劇(ドライサー/集英社):
布教活動に身を捧げるも報われない一家。長男のクライドはホテルのベルボーイとして働く中でお金持ちの生活を垣間見る。でも友達が運転する車で事故を起こして慌てて逃亡。偽名でまたホテルで働いている時に金持ちの叔父さんを見掛けて、その工場で働くようになる。従兄弟とよく似ているからと少しの尊敬を得るクライド。でも叔父さん一家は家族扱いしてくれるわけじゃない。前に比べれば良い生活だけど、叔父さんやその周りの上流社会に比べると話にならない。ついつい部下の女工ロバータに手を付けてしまう。ところが手の届かない筈の超上流社会の美しいお嬢様ソンドラの歓心を買うことができ、もしかしたら自分もあの世界に入れるかも!と思ったところでロバータが妊娠、結婚を迫られてしまう。とりあえずの中絶させたくてもお金もないしツテもない。困った挙句にうっかりロバータを殺してしまい。平等に見えるけど、そうでもないアメリカの悲劇。もちろん貧しくても人一倍の努力でアメリカンドリームという話はあるし、貧しいながらも幸せな生活はある。だけど金持ちの子女は特に努力しなくても、良い生活を手に入れられることも事実なんだよなー。金さえあれば幸せというわけではないが、でもねぇ。長い割に全く救いのない話。

(232)シスター・キャリー(ドライサー/岩波文庫):
2冊目のドライサーはStateカテゴリー。テーマは「アメリカの悲劇」に似てるのだが、都会が描かれてるからな。シカゴもNYもとてもそれっぽい。「シスター」は修道女ではなく妹の意味らしい。普通にカワイイ女の子が姉を頼って上京し、男性にちやほやされながら都会生活にどっぷり浸かっていく話。最初の男ドルーエは親切でいいやつなのだが、結婚する気はない。将来が不安になったあたりで、有名店支配人ハーストウッドから横恋慕されてしまう。熱心に口説く年上の紳士に惹かれるキャリー。結婚まで約束してくれるが実は妻子持ち。でも本気のハーストウッドは出来心で店の金を持ち出し、ドルーエが事故で入院したと嘘までついてキャリーを連れてNYへ高飛び!再就職も出来ずジリ貧に。生活費のために女優としてバイトを始めたキャリーはとんとん拍子に出世してヒモ化したハーストウッドを捨てる。結果的に利用されただけの男二人がストーカーに走らない所は好感が持てる。さほど悪気はないのだがなぁ、若い女あるある。

(233) アマ―ロ神父の罪(エッサ・デ・ケイロース/彩流社):
crime=犯罪=殺人事件を思い浮かべるが、これは単なる罪、だな。舞台は19世紀ポルトガルの地方都市。新たに着任したアマ―ロ神父は美青年。神職は自分の希望ではなく、妻帯できない自分にイライラ。下宿先は先輩神父の愛人(未亡人)の家で、魅力的な娘アマリアは小役人と結婚予定だが、ボクに気があるみたい?気づいた小役人が神父たちを中傷する(事実だけど)匿名の投書を新聞に掲載して下宿を追い出されるアマ―ロだが、当初主がバレて反撃に転じる。そしてアマリアを我が物に。落としたあとはすっかり独善的になり逢瀬を重ねるうちにアマリアは妊娠してしまう。田舎町で出産させて子供は養子に出してしまう完璧な計画を立てるのだが、産後のアマリアは死んじゃうし、子供も死んだと言われる。失意のアマ―ロは転勤を願い出るが・・あまり懲りてないかも?神父に身も心も捧げてしまう哀れなアマリア。こういうことはどこでもたくさんあったのだろうな。

(234) アメリカン・サイコ(ブレット・イーストン・エリス/角川書店):
epi文庫の「レスザンゼロ」に続いて2冊目のエリス。ウォール街の若きエリートパトリックは実は猟奇殺人鬼。エログロな描写が多いのに辟易するが、あまりに罪の意識がないし、しかも捕まる気配もない。実は妄想だったりする?と思いながら読んだ。80年代の終わりごろのNYが舞台。ブランド名が溢れるファッションやレストランの描写はバブル期を彷彿とさせる。あの頃日本でもDCブランド熱がすごかったんだよな。天邪鬼なAJは通り過ぎたつもりだけど、でもブランドイメージはわかるからやっぱり影響を受けてたんだな。スシ始め日本文化や製品が流行の最先端ででもこっそりバカにされている。あの頃スシバーなんてものも逆輸入されてたよなー。ドラッグを除けば当時の日本もこんな風に率直な物欲の虜だったと思う。

(235) ファーザーランド(ロバート・ハリス/文春文庫):
ナチス政権下の刑事マルヒが党幹部の自殺とみられる死体の調査を行うが。年代が?と思ったらドイツが第二次世界大戦に勝利したIFの世界の話だった。情報統制は厳しく支配した欧州でのテロは続いているが報道されていない。アメリカはドイツと手を組みロシアに敵対。自殺?事件はゲシュタポに取り上げられるがでもこっそり捜査を続ける内に別の幹部も自殺。なんか変。隠されているのは何?ゲシュタポと警察の派閥争い。出て来たのはユダヤ人虐殺事件なのだった。アメリカ人女性ジャーナリストのシャーリーが強くてカッコイイ。恋仲になってしまう。秘密を持って高跳びしろと警察幹部に励まされるが、罠に気づいたマルヒは証拠を託したシャーリーを守るために身を挺するのだった。推理小説としてはイマイチだが、事実ベースに歴史のIFを乗っけて作る趣向は面白いと思う。

(236) ブラック・サンデー(トマス・ハリス/新潮文庫):
パレスチナテロリストがアメリカのライスボウル会場で大量殺人を計画する。実行犯はアメリカ一般人の天才技術者。イスラエルの諜報員カボコフが八面六臂の活躍でテロリストを倒していくんだけど、FBI同僚や元海軍の一般市民も一緒に闘って、アメリカ人が書いてるなーて感じ。あまり感心しない。

(237) レッド・ドラゴン(トマス・ハリス/ハヤカワNV):
ハンニバル・レクター博士のデビュー作だった。レクターあまり活躍しない。「羊たちの沈黙」が選ばれそうなものだけど読み物としてはこちらの方が良いということなのかなぁ。読み心地が良いとは言えないが、そんなに怖くはなかった。グロいけど。でも気になって最後まで一気読みする程度には怖かった。

(238) 殺意のシーズン(カール・ハイアセン/扶桑社ミステリー):
南フロリダの観光客を狙うテロリストグループは、フロリダから金持ち達を追い出し、元の姿を取り戻したい。犠牲者をワニに食わせたり、手紙爆弾を仕掛けたり、残酷なんだけど間の抜けた失敗もある。記者の手違いで「12月の夜」のnochesがnachosになってみんなにナチョスと呼ばれてしまったり。お祭りクイーンのカーラ・リンがいわゆる単なる美女でないのもカッコイイが、敵か味方か最後までわからない、運命の女ジェンナが魅力的。観光シーズンのフロリダは知らないけど、よく描けているんだと思う。楽しくてエンタメ小説の鑑。

(239) スミラの雪の感覚(ペーター・ホゥ/新潮社):
デンマーク発ハードボイルド。人ががんがん死ぬ。グリーンランド原住民の母とコペンハーゲンの有名医師の間に生まれた科学者スミラ。滅茶苦茶タフでかっこいい!近所の子供の事故死?を調べる内に過去にグリーンランドで起きた謎にたどり着いてしまう。子供時代をグリーンランドで過ごしたスミラは氷や雪など自然現象に鋭敏。グリーンランドでは氷にたくさんの名前がある!感動的な風景なんだろうけど寒そうだし暗そう。行きたい気はしない。グリーンランドってデンマーク領なのね。意外。お金と名声のために世界を危険に陥れることもいとわない「現代人」と「原住民」な生き方の対比。どっちが正しいとかイイとかではないけど、少なくとも都会生活礼賛は避けたいと思う今日この頃。

(240) 追われる男(ジェフリー・ハウスホールド/創元推理文庫):
要人の暗殺未遂犯として殺されそうになる男。誰を何故殺そうとしたのかも、本人が誰なのかも明かされないまま話が進む。人品卑しからぬイギリス人らしいのだが、なんとか逃げ出して英国に戻っても組織に追われる。英国に迷惑をかけまいと、当局の庇護は求めず、ひたすら逃げる。孤独なサバイバル。作りとしては面白いと思うけど、主人公が不死身過ぎるのと、暗殺の動機が殺された恋人の復讐、ってのが唐突な感じ。要人=ヒトラーなのだそうだが、後書き読まないとわかんないよ!イギリスとイギリス人は良く描けていると思う。水泳中の男4人からズボンを失敬するなら4人分全部!というのは説得力あるなー。

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