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2020年10月26日

Guardian’s 1000 (21)

今回は1冊が多かったのでさくさく進んだ。光文社古典には収載されないだろうCrimeカテゴリが多め。

(201) ファントマ(ピエール・スヴェストル、マルセル・アラン/風濤社):
「ファントマ」が怪人の意味だとは知ってたけどこのシリーズが元だったのか。誰が犯人なのかはすぐにわかってしまうし、トリックは超人過ぎるので、推理小説ではなく冒険活劇スリラーだな。ルパン的な超人ぶりのファントマは紳士的なこともあるが強盗殺人なんでもござれの極悪人。そして超人はファントマだけではなく、追う方の警部も超人、巻き込まれる被害者も超人がいたりして、そんなのありか活劇。面白いことは面白いのだが、面白いだけかも。

(202) ディミトリオスの棺(エリック・アンブラ―/ハヤカワミステリ):
イギリススパイ小説の元祖だそうだ。探偵小説を書くラティマーは、イスタンブールでたまたま知り合った自作のファンの好意で、かつての国際犯罪者ディミトリウスの他殺体を見物。どんな犯罪者だったのかなと調査していくうちに怪しい男につきまとわれる。自分が見た死体は実は別人?迷いながら好奇心から恐喝にお付き合いして当人と遭遇。絶体絶命の危機を運よく回避して終わり、ってそんなご都合主義な。金で雇われる戦争の黒幕。単なる冒険小説ではないのがイギリススパイ小説の伝統なんだろう。見習えよ007!

(203) あるスパイへの墓碑銘(エリック・アンブラ―/創元推理文庫):
国籍をなくした語学教師がリゾート先で写真を現像に出したら覚えのないものが写っていていきなりスパイ容疑で逮捕。よく考えたらカメラを取り違えてた。同じカメラを持っていたホテルの誰かって誰?調べ始めてみると誰も微妙に怪しいような。しかしバタシー君やることがダメダメでドツボにはまる。滞在客はそれぞれに裏事情があったことが最後にわかる。そしてバタシー君は当局の諜報機関の人だったという結末を押し付けられ、逃げるようにパリに戻るのだった。各国人の描き分けも楽しく読めた。

(204) トレント最後の事件(E・C・ベントリー/創元推理文庫):
素人探偵トレント恋に落ちる。ホームズばりの千里眼だが動機のところで間違って残念。トリック満載の割に結論はシンプルでいまいち・・・

(205) マルタの鷹(ハメット/ハヤカワミステリ):
魔性の女は誰にとっても天使じゃないといけない。確かに同性に通用しないならただの性悪女だもんな。騙されないし許せないのに惹かれていることを隠さないサム・スペードは強い男だと思う。表題の鷹の像についてあっさり終わり過ぎ。もう少し謎というか因縁が欲しかったなぁ。しかしマルチーズって「マルタの」って意味だったのか!犬のマルチーズはマルタ生まれに見えません。

(206) 血の収穫(ハメット/創元推理文庫):
ハメットの長編第一作。私立探偵が主人公で元祖ハードボイルド。暴力シーンは多いのだが、人が死に過ぎと思う。血で血を洗う抗争ってやつ。当然男性が多いのだが、若い情報屋ダイナちゃんが魅力的。娼婦の割には女を売りにしない。さすが高級娼婦は違うね。頭が回るし腕っぷしもなかなか。酒も強いが怖がる時はちゃんと怖がる。カッコイイのになんで殺されちゃうんだよう。

(207) キャッツ・アイ(マーガレット・アトウッド/開文社):
小学生の頃、女子グループ内の虐めを乗り超えた主人公。今では自立した画家でバツイチ子持ち、再婚もしていわゆる成功した人生。かつて虐めていたコーデリアとは高校で再開し立場が逆転。復讐したい/しているような、そうでもないような。でも間違いなくトラウマにはなっている。自伝的作品だそうな。あるあるだけど、細部がやっぱりうまいよね、単なる自伝ではこうはいかないと思う。キャッツアイは虐められていた私のお守りだったビー玉。虐められている子が読んでも参考にはならないと思うが、しかしうまい。ハッピーエンドではないけど希望はある。ていうか絶望はない。しみじみと読める。自分の子供時代を思い返す。

(208) 侍女の物語(マーガレット・アトウッド/ハヤカワepi文庫):
近未来ディストピア。宗教系団体がクーデターを起こして北米を支配。「普通の生活」から10年経ってない程の近未来。1985年発表ということは20世紀内なのか。愕然。主に女性の権利を抑圧する様子はイスラム教チックだが、聖書ベースのキリスト教らしい。いわゆる福音派?まずは職場から女性を「解放」、女性の財産は夫や父などのものとなりクレジットカードも使えなくなる。うーむ。現実的。女性は青い服の「奥様」と緑の服の「女中」、赤い服の「侍女」の3種類となる。「侍女」は妾というより露骨に子供を産むための存在。3種類のどれでもない女性は「非女性」として姥捨て山行き。男性も特権に応じて子供を持てるか決まるなど抑圧はあるのだが、女性についてより多くが割かれている感じ。ディストピアに慣れ切った住人ではなく、つい先日の普通の生活が思い出されるのがイイ。赤い服の描写も細かい。顔が見えにくいように、ベールでもマスクでもなく「白い翼」が付いている。カッコイイ・・・。出口のない生活から脱走を図るが、うまく行ったかどうかは謎、の過去の物語(200年くらい前)として提示される。1985年といえば、東西戦争も行き詰まってきて明るい未来が見えた気がしていたころ。20年でテロ戦争に変わり、また20年で違う危機になっている。こんなに簡単に世界って変わる。ま、現在となっては本を読まなくても実感できるんだけどさ。絵的にアニメ向きだが、浅くなるのでアニメにしないで欲しいです。

(209) 瘋癲老人日記(谷崎潤一郎/中央公論社):
瘋癲(ふうてん)な老人の日記。息子の嫁に恋着する病持ちの金持ち爺さん。しっかり者の嫁は水商売出身で舅を見事に翻弄する、ように老人には思える。創作なのはわかるのだが、実話ベースにしか思えない。Wiki見てみたらやっぱりモデルがいて実話が混ざっているようだ。だろうなぁ。これは谷崎にしか見えませんよ。普通、谷崎と言えば痴人の愛か細雪だと思うのですが。本作はスキャンダル過ぎる気がするんですが。まぁ谷崎らしい作品だと言われるとそうなんだけどさ。枯れずに頑張る!と主張する男性週刊誌は多いが、傍から見ると結構キビしいと自覚はしないとね。こんな風に自分を曝すのが谷崎ではあるが、見たくなかったなぁという気持ちが半分、でも老醜を見ないふりするのもダメだよなぁと自戒の気持ちも半分。

(210) イワン・デニーソヴィチの一日(ソルジェニーツィン/新潮文庫):
強制収容所(ラーゲル)で過ごすイワン・デニーソヴィチ・シューホフのありふれた一日を起床から就寝まで。酷寒の中、三度の食事と作業の間に繰り返される点呼と整列。過酷で希望のない毎日にも慣れてしまう。管理する側もされる側もズルをするし悪党もいる、不公平もある、人種偏見もある。でも、労働に熱中する楽しさや班で一致協力する喜び、稀に仲間に見せる優しさや神様への感謝とか、小さな幸せもある。小さすぎる幸せだけど。登場する囚人の多くは政治意識の薄い巻き込まれ型。それでも「あいつは悪いやつだから一律25年」になったのだろうなぁ。さもありなん。そんなソヴィエトは既に過去の話ではあるけど、あんまり他人事じゃないなぁ。今読んでも古くない話。

2020年10月11日

新シリーズ開始:ハヤカワepi文庫シリーズ

やっとハヤカワepiシリーズを書き始めます!全部で100タイトル弱。Guardian’s他で既に3分の1が収載済なので案外早く終わっちゃうかも。一覧はこちら
第一弾は、Guardian’sで読んでみて面白かったグレアム・グリーンの固め読み結果になってます。ちなみに先頭の番号は、ハヤカワepi文庫についている通し番号です。

(28) おとなしいアメリカ人(グレアム・グリーン):
ベトナム戦争直前のサイゴン。英国人ジャーナリストはアメリカ青年に美女フォンを奪われるが、青年は殺されてしまう。日本帝国撤退後にアジア独立の機運が高まったのは知ってたけどこんな感じだったのか。旧宗主国フランスはなんだか分が悪い。そこにアメリカが乗り込んでくる。相手がコミュニストだかららしい。アメリカ青年本人は素直で真面目ないいやつなのだが、やってることは怪しい。各国ジャーナリスト達もフランス軍も結構怪しいし、麻薬漬けの現地人もやっぱり怪しい。確かになんでアメリカが参加したのか。そんなにコミュニストが怖い?どんな利権があるんだと思うよねーやっぱり。

(75) 国境の向こう側(グレアム・グリーン):
短編が16。表題作は前書きによると途中で投げちゃったものらしく尻切れトンボ。「最後の言葉」は1984的ディストピア小説で、記憶を失った老人が最後にはちゃんと?ローマ教皇として葬り去られる。信仰も忘れたけれど、やっと安寧を得られると思わず主を称える様子に、狼狽する国家元首。ありそう。「エッフェル塔を盗んだ男」イギリス人のパリ嫌いって感じで笑える。「中尉が最後に死んだ」落下傘で降りてきたドイツ軍が酔いどれ親父に退治されてしまう。なんか哀れ。レストランを格付けするのは実は諜報活動の隠れ蓑って笑える。これもフランス嫌いな感じ?

(32) 事件の核心(グレアム・グリーン):
アフリカ植民地で警察副署長を勤めるスコービーはなんだか不運。仕事はマンネリだし妻は煩わしいし友達もいない。妻の旅行中に若い未亡人とうっかり恋仲になるが、カトリック教徒としては姦通に悩む。どうしてこんなことにと思っている内に妻は帰宅するし昇進も決まる。でも全然幸せになれない。恋人も捨てられないし妻の期待も裏切れない。信じられると思っていた少年召使も信じられなくなる。悩んだ末に心臓の薬を大事に取っておいてこっそり一気飲み。残された妻と神父さんは、彼は神を愛していたのだ、と話し合う。神だけを愛していたと。うーむ。救いよりも罰を与える神様。ていうか、救いよりも罰が欲しいと思うのが信仰なのか。事件の核心はいつも切ない。

(31) 二十一の短編(グレアム・グリーン):
短編が21。「特別任務」特別秘書の仕事は身を清くして免償を得ることなんだけど実は。ありそう。懲りずに次の秘書を探すのが笑える。「ばかしあい」は老詐欺師二人がそうと知らずに互いの子供の玉の輿を狙う。当の二人は事実を知った上で乗る。ハッピーエンドでいいね(笑)。腹鳴がすごすぎる「能なしのメイリング」。まとめて読むと同じように見えちゃうのが難。

(38) ヒューマン・ファクター(グレアム・グリーン):
地味で真面目な諜報員モーリスは実は二重スパイ。情報漏洩に気づいた組織はしかし同僚のデイヴィスを抹殺してしまう。このまま辞めればわからないけど、でも。最後の仕事をすることで自分の立場を明かし、東側へ逃亡する。残された黒人妻と息子と再会できるのか、幸せになれるのか、でもいったいどこで?

(30) 負けた者がみな貰う(グレアム・グリーン):
丸谷才一訳。社長が招待してくれた筈の結婚記念豪華バカンス。ところが社長は現れず。滞在費を支払うために大博打。忘れちゃダメじゃん、社長。後味も良いユーモア小説。

(73) 見えない日本の紳士たち(グレアム・グリーン):
表題作を含めて短編が16。色恋の軽い話が多い。レストランにいた日本の紳士たちが「見えない」表題作はあまり面白くない。新婚夫婦を巡る「ご主人を拝借」はちょっと面白い。一番好きなのは、別れた女があちこちに顔を出す「過去からの声」かな。これは怖い。でも笑える。

(35)ブライトンロック、(1)第三の男、(29)権力と栄光はGuardian’sで収載済