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2020年2月18日

Guardian’s 1000(15)

やれやれやっと150冊だよ。あと10冊で全カテゴリー網羅したら、その後はカテゴリーに関わらず10冊ずつのアップにしようかなと思っているところ。

今回はCrimeカテゴリーの3回目。既読2冊+初めて8冊。開始時点で既読が一番多かったのはこのカテゴリーでだいぶ再読したけど、推理小説は社会を映す分、今読むとなんだかな、な物が多いんだよね。当時は面白かったんだけど。初読でもそんな本が多い。

(141) 野獣死すべし(ニコラス・ブレイク/ハヤカワ文庫):
再読。息子を自動車事故で失った推理作家。偶然から犯人を見つけて復讐を図る。完全犯罪を狙っている、のだろうが、どこが完全なんだか?読者のミスリードは誘っても、警察ってそんなに深読みしないと思う。大藪春彦のハードボイルドとは別の本なのでご注意を。

(142) 殺人保険(ジェイムズ・M・ケイン/新潮文庫):
初読。加害者の視点で語る推理の余地がないパターン。人妻と浮気→なんとなく夫を殺すことになり、てところは郵便配達と似ているが、こちらは人妻が極悪人。冒頭から推察できるのでそこは悩まないんだけど、娘と娘の恋人/本人と娘の関係が変わっていく感じが秀逸。そういうことあるかもなー。保険勧誘員だから保険の狙い目がわかる!と思う加害者だが、それは本人に限ったことではなく、同僚にご明察されてしまうのだった。そりゃそうか。

(143) シークレット・エージェント(コンラッド/光文社古典新訳):
初読。「闇の奥」とはずいぶん違うタッチだけど、これも救いはない。秘密機関の題名通り諜報活動について。情報収集が主だったのに突然テロを言いつけられて困惑する主人公。うっかり転んだことで義弟が自爆してしまいターゲットの建物は無傷で無駄死に。そもそもうまくいってたとしても「意味のある」テロになったのか。担当者の思いつきでしかないかも。虚しさを抱える関係者一同。今の時代にも全然古くない物語なのだった。

(144) ジュラシック・パーク(マイクル・クライトン/ハヤカワ文庫):
映画は見たけど初読。映画は恐竜の見事さが話題になったけど、小説はそこは当然として描かれるので問題点がくっきりするね。現実はまだ恐竜を作るところまでは来ていないけど、技術的には既に十分できるところまで来ているし必要なお金も格段に少なくなった。自然というものは単純なものじゃないけど、フラクタルていう視点では複雑な訳じゃない。結局「自然の再現」は困難なんだよな。コントロールできることを前提に考えると大きく間違える。その通りだと思う。
PS:つい先日、地上波で放映された時に、新聞が「マイケル・クライトン」になってて笑った。マイケルだと思うよね、普通。

(145) 薔薇の名前(ウンベルト・エーコ/東京創元社):
これも初読。昔すごく話題になって気になってたんだけど。先日「100分de名著」で取り上げられた時には確かに推理小説扱いだったけど、アヴィニョン虜囚時代のキリスト教の歴史が細かく描かれていて、本を読むには世界史年表が必要だった。ふむふむこんな状況だったのか。教会の腐敗と浄化への試み、でも実際には単なる派閥争いになったり異端者探しになったり。キリスト教に限ったことじゃないけどさ。この辺に興味がないと読むの辛いかも。映画は恐らくすっ飛ばして作ったんだろうな。

(146) カジノ・ロワイヤル(イアン・フレミング/創元推理文庫):
(147) ゴールド・フィンガー(イアン・フレミング/ハヤカワポケットミステリ):
(148) 007は二度死ぬ(イアン・フレミング/ハヤカワ文庫):
英国が誇る007シリーズから3冊がベスト千入り。
若かりし頃、007の映画に誘われてにべもなく断ったことがあったなぁ。この人あんな映画なんか見るんだと思ったのが顔に出ていたと思う。好みは人それぞれなのに、失礼なことをしたものだ。そのくらい007は好きじゃない。原作読むと違うかしらと思ったら同じだった(笑)。娯楽大作だとは思うけどさ。女性の描かれ方が気に入らないというのもあるんだろうけど、とにかくAJの好みではありません。人物も背景も薄っぺらに感じる。それでこそ娯楽大作なんだろうけど。
「007は二度死ぬ」の原題はYou Only Live Twiceで、どうみても「二回だけ生きる」。ストーリー上は確かに二度死ぬけど、ボンドの俳句(短詩)の二回「だけ」の意図が邦題では伝わらないと思う。

(149) ジャッカルの日(フレデリック・フォーサイス/角川文庫):
二度目。プロの殺し屋がリアルに描かれていて圧巻。殺し屋と彼を追い詰める警部以外の政治組織(テロ側も政府側も)も警察組織のダメダメぶりもありそうすぎ。捕まって終わったと思いきや、軽いどんでん返しが効いています。それでジャッカルって安易だと思ったんだよ(笑)。現在はいろんな点で技術的にはこうはいかないと思うが、それでも読んで面白いです。

(150) ブライトン・ロック(グレアム・グリーン/ハヤカワepi文庫):
初めて。面白くて一気に読んだ。チンピラのピンキーが裏切った仲間を非情にも次々消していく。年下のピンキーに脅える仲間たち。しっかり完全と思いきや、義憤に駆られて私的捜査する歌姫アイダに見破られて、証人のローズと結婚するも安心できず、自殺させようとしたところで自滅。罪悪感の欠片もなく殺人を繰り返すピンキー。結構暗い。丸谷さんの訳だった。親切な訳注に感謝。

2020年2月3日

Guardian’s 1000(14)

魔の山を諦めてようやくアップできるようになった。今回はState of the Nation。

(131) アンクル・トムの小屋(ハリエット・ビーチャー/明石書店):
子供の頃に読んだきり。トムが坊ちゃまと再会したのに死んでしまう絵があったのは思い出せたけど、他の筋はさっぱり。脱走奴隷の筋も書いてあったのかな?トムが死んでしまって終わりだった気がするんだけど?本当は一応ハッピーエンドになってたんだな。奴隷戦争前夜のアメリカ。北部から南部へ売られていく。どこにも悪人も善人もいる。宗教色強いし、黒人の描かれ方(しゃべり方も含めて)には問題もあるんだろうけど、これは読んでおいて損はないと思う。

(132) 恥辱(クッツェー/ハヤカワepi文庫):
主人公がアカハラで地位を失う前半(ケープタウン)はよくある話な感じ。娘が憧れの田園生活を送る郊外へと避難する後半から南アらしいんだと思う。でもさ、ここまであからさまな恥辱はなくても、「独身女が趣味で田舎暮らし」への迫害はどこでもある気がする。しかしこんな恥辱はいかんな。でもでも、現代日本では犬猫には身勝手な殺戮を行っていたりする。どこまでが守るべき同胞で、どこからは迫害してもいい相手なのか。

(133) ホワイト・ノイズ(ドン・デリーロ/集英社):
アメリカ大学町で教鞭をとる主人公はナイスバディな妻と互いの連れ子と概ね幸せに過ごしていた。しかし、謎の物質爆発で街から避難する羽目になったり、妻がこっそり飲んでいるのが謎の薬だったり。どうも謎の物質暴露により健康被害を受けているようなのだが検査結果に向き合いたくない。それもこれも、昔から持っていた死への恐怖によるものらしい・・・アメリカだけじゃない話に思う。フクシマを思わせる状況もあるし。自然災害の報道をつい夢中になってみてしまうのは、死への恐怖を予感しているからなのか。この点において日本は良いコンテンツを持っていると言われてもなぁ。

(134) オリヴァー・ツイスト(ディケンズ/新潮文庫):
これも子供文学全集的なもので読んだ。孤児オリバーが実はお坊ちゃまだったというありがちな童話、だと思っていたが・・・面白いじゃん。粗筋から感動話を予想すると裏切られます。明らかに大人向けの本でくすぐり満載。いいも悪いもロンドン/イギリスぽい。

(135) 白痴(ドストエフスキー/光文社古典新訳):
「おばかさん」な公爵と二人の女。結局誰も幸せにならない結末に呆然。ま、ハッピーエンドにならなくてもいいんだけどさ。「白痴」というより「愚者」な感じ?本文からはさっぱりそうは見えないのだが、周りから「おばかさん」とみなされているんだから、喋り方か動作か格好なのか何かそれらしく見える人なんだろう。単なる癲癇持ちではないんだろうね。女性二人は聖母マリアとマグダラのマリアなのかね?少なくとも誰かは幸せになってもいいような気がするんだけど、なんでならないのかね??

(136) サイラス・マーナー(ジョージ・エリオット/光文社古典新訳):
前半はひたすら暗い。不幸続きのサイラスが神との出会いにより・・・てな話かと思ったらそんなことなかった。舞踏会の夜あたりからだんだん描写が明るくなってくる。女性陣は特に魅力的。男性陣はコミカル。19世紀にしちゃ進んだ視点だよなと思ってたら作者は「進んだ女性」だった。ジョージ=男性とは限らないのね。

(137) 草は歌っている(ドリス・レッシング/晶文社):
アフリカ植民地での不幸なイギリス人。プア・ホワイトはアメリカだけじゃないのだ。何をやってもうまくいかないディック、優等生な少女時代から優雅な独身生活を経て、周りの嘲りを逃れるように結婚を急いだメアリ、そしてここでもプア・ホワイトの更に下に位置づけられる黒人のモーゼス。ところがメアリとモーゼスの関係が微妙に変化していき・・・。入植地って優雅なイメージあるけどいろいろだったのね。この先に今の南アがあるわけだ。最後まで救いがなく暗い。表題はエリオットの「荒地」からで、「墓石の上を草は歌っている」イメージなのだそうだ。後書きを読んでようやく納得。

(138) ラデッキー行進曲(ヨーゼフ・ロート/岩波書店):
AJにはウイーンフィルのアンコール曲として認知されているラデッキー行進曲。イタリアに勝利した将軍を祝う曲だったのか。ちなみに今では平和の象徴だそうな。オーストリアの第一次大戦前夜あたり=帝国の崩壊を描いたもの。ほぼ同時代のエリザベートを描いた本はいろいろあるけどオーストリアを描けてたかどうか疑問かもしれない。これは軍や街の様子含めて国の状況が頭に入ります。三国同盟のドイツとイタリアってなんでかなと思ってたけど、間にオーストリアがいたんだった、納得。愚直な軍人が王様の命の恩人になるものの、子孫にとっては良かったのかどうか。何度か出て来る「桜桃の団子」が気になって仕方ないのは私だけでしょうね。通常はさくらんぼじゃなくアンズで作るものらしいぞ。

(139) 怒りの葡萄(スタインベック/ハヤカワepi文庫):
2014新訳で再読。前に読んだのは中学か高校生。貧乏人が苦労するどこまでも暗いアメリカの昔話であまり感心しなかった。再読したら1930年代ってそんなに「昔」じゃない。そして現在、歴史は廻っちゃってる・・・集約化も階層化も移民排斥も米国のみならず全世界に広がってる。全然変わってないじゃん!!グローバル化も情報化も解決にはならなかった。却って進めちゃった部分すらある。けどでも、移民排斥して「昔」に戻っても解決にはならんのだ。アンタが良かったっていう「昔」って実はこんなだった!と思い出すために、今読んだ方がいいと思う。読んだところでどうしたらいいのか、やっぱり答えはないんだけどさ。

(140) カップルズ(ジョン・アップダイク/新潮社):
アップダイクは「走れウサギ」を読んだだけだと思う。不倫の話と言う意味では同じだけど、輪をかけてる感じ。一つのコミュニティ内で恋愛というのが「アメリカ的」と考えてState of the Nationなのかね。全米がこんなわけじゃないと思うんだけど。でもアメリカTVドラマ的ではあるな。終わりはハッピーエンドっていうかなんて言うか。そんなのあり?とも思ったが、実際はドラマと違ってこんなのが多いんだろうな。